「沖田先生」
私が呼ぶとすぐに先生は振り返ってくれます。
そしていつものあの優しい笑顔で傍に来てくれて、
「どうしました?神谷さん」
そう返してくれる。
いつだって、『私の傍にいなさい。呼んだら応えの聞こえる距離に必ずいつもついていなさい。応えなければ死んだものと承知します』、そう言いながら、先生はいつもさり気無く距離を縮めて、どうしても至らない私のすぐ傍にいてくれます。
「子ども扱いしないでください!」
「だってまだ子どもじゃないですか~」
そうやって私は何時まで経っても先生に庇護される存在でしかなくて。
それが悔しくて、何度も何度も反発した。
沢山沢山稽古をして、努力を続けて、いつか先生をお守りできるように。
「ほら。神谷さん。怪我見せてみなさい」
先生は新選組の精鋭部隊と言われている一番隊の組長なのだから、幾ら頑張ってもどうしても強くなれない私なんかとっくに見放してくれてもいい筈なのに、ずっと前を向いて先へ行く先生は、いつだって必ず振り返っては心配してくれる。
「私の事なんかお気になさらないでください!」
「神谷さん頑張ってるんですもん。何だかんだ言ってちゃんと私の稽古についてくるし。だから応援したくなるんですよ」
自虐的になっていた私の心を見透かしたように、先生は笑って私の傷の手当をしてくれる。
そうやって覗く先生の横顔は何処か嬉しそうで…。
悔しくなります。
キィン!
激しい刃のぶつかり合いがそこかしこで響きます。
その中で最も早く動き回るのが、先生。
誰よりも早く動いて、一人二人と戦闘不能にしていく。
隊の皆の事を心配していない訳じゃない。皆の事を思うから、誰一人傷つかなくて済む様に、最低限の被害で済むように動く。
それを一度、先生に確認したら、一杯疑問符浮かべていたけれど。
きっと優しいから、無意識に体が動くのでしょう。
そう思ったら、悲しくて、嬉しくなった。
それは、その分、誰よりも血を浴びることになるのだから。
「神谷さん。状況の確認と報告を」
そう、まだ凍える月の瞳で私を真っ直ぐ見据え。
全てが終わると。
「帰りましょう」
そう穏やかにまた笑いかけてくれる。
その月と太陽のような二面性。
どちらも先生。
傍にいればいるほど。
傍にいられればいられるほど。
先生をどんどん知って。
心が先生でどんどん旨が一杯になるんです。
何度も嫌いになりかけた時期もあったはずなのに。
その分だけまた何度も前よりもっと先生を好きになって。
もっともっとずっと好きになって。
きっと、先生は少しも気付いていないけど。
「沖田先生」
何度でも想いを込めて、名前を呼ぶ。
いつかこの想いのほんの一欠片でもいい。
気付かなくてもいい。
貴方に伝わりますように。
2012.09.29