もも

どうしたらいいんでしょう!どうしたらいいんでしょう!
もう!もう!本当にもう!
え?落ち着け?ですって!?これが落ち着いてられますか!
だって本当にもう!ですよ!
何が起こってるかさっぱり分からない?そうですか?そうですよね!ええ!でもこんな状態の神谷さんを誰にも見せられる訳がありません!
私はいいのかって!?
私はいいんですよ!私が守ってあげなきゃならないんですから!
女子の身で新選組にいる神谷さんを守ってあげられるのは私くらいなんですから!斎藤さんもいるじゃないか?あ…そうですよね…。じゃあ私いらないのかなぁ…。
「神谷さん…もう私はいらないんですか…?」
問い掛けてみるけど、当の神谷さんは夢の中。私の呟きなど少しも聞こえてません。
「ん…おきた…せ…」
今呼びました!私の名前を呼んでくれました!
聞こえていないはずなのに!聞こえてるんでしょうか?
私の夢見てくれてるんですか?何処か嬉しそうですよ?
それとも本当は起きてるんですか!?だったら貴方早く布団を掛け直してくださいよ!
今日は暑いです。京の夏は厳しいといいますが、今日は特に暑いです。
他の人たちも布団を放り投げて寝ています。神谷さんは女子とばれないようにという事なのか普段どんなに暑くてもきっちり布団を被って眠ります。
今日もそうでした。
寝付くまでは。
きっちり布団を被って眠る神谷さんですが、寝相はそんなに良い方ではありません。私もですけど、よく人の布団まで転がってくる事もあります。
それくらいならまだ私がドキドキしながらも寝てればいい話です。
でも今日は違います!
神谷さんでも今日の暑さは堪えるのでしょう。掛けていた布団は既に足元で丸い塊になっています。
そして何と!寝巻が肌蹴てるんです!
帯が緩んで、胸元から晒が覗いていますし、膝を立てて寝るものだから、太股が露わになってるんですよ!
こんな状態で私、どうすればいいんですか!
目のやり場に困るし、神谷さんの太股が物凄く柔らかそうだなとか、触れたらたぷたぷするんですかねとか、白い肌に噛み付いてみたいなとか、そんな事考えてたらむずむずするし、でも目は勝手に神谷さんの姿を焼き付けるように見開いてるし。
ああ、寝てる顔も可愛いなぁ。無邪気な顔して。
やっぱり好きだなぁ…。
ダメダメダメです!武士に恋情はいらないんです!
それでも!
やっぱり直すのは私の役目ですよね!
他の人にさせるなんて…ダメです!絶対ダメです!見るのも触るのもダメです!
でもでも神谷さん、この間事故で乳を揉んでしまってから…故意じゃないですからね!あれば事故ですからね!…私の事警戒していて…変に距離を取るようになってしまったんですよね。あ、ちなみに悶絶はしましたけど、男としての機能は無事でしたよ。
と、そんな事があってから私がちょっと手を伸ばすだけですぐに避けられてしまって…やっぱり好きでもない男に乳揉まれたから傷ついたんですよね…だから私は神谷さんをお嫁さんにしたいとか、「おかえりなさいませ、総司様」とか言って欲しいとか、そんな事少しも考えてないんですってば!
兎に角、私は神谷さんとどうこうなりたいという気持ちなんて少しも無いのに、男として警戒されて、何だか今は寝てるのに迂闊に触っちゃ駄目なのかな。と思ってしまうんです。
偶々私が最初に神谷さんの寝姿に気付いてよかったですよ。他の人にこの姿見られてたら…どうなっていた事か……考えるだけで、お腹の奥がぎゅうってなります。
「…これは仕方が無いんですよ。だから触れてもいいですか?」
私は神谷さんの耳元でそっと囁きます。
こんな状態のままで神谷さんを放っておく事も出来ませんし、私も眠れません。
「直しますよ。何も疚しい事する訳じゃないんですからね。怒らないで下さいね」
そう言いながら私は神谷さんのむき出しになった太股にそっと触れます。
や…柔らかい…。
思ってた通り大福みたいにすべすべでもっちりしていて感触が物凄く気持ちいいです。
ちょっと指に力を入れてみると、ふにふにと吸い付いてくるように形を変えては戻ります。
まだ触れてたい…けど、駄目です。
そっと立てていた膝を伸ばしてやり、布団の上にゆっくりと横たえます。
神谷さんが起きないように。
見えていた下帯を隠すように寝巻を直してやります。
何だかもう、緊張でただでさえ暑いのに、余計にまた体が熱くなります。
どうしましょう。
これは帯を結び直してあげた方が良いのでしょうか?でも、それじゃまるで私、神谷さんを襲ってるみたいじゃないですか。
…おそって……!
だから、私そんなつもりないんですってば!
神谷さんがいいよって言ってくれるなら……だから!私は不犯を誓ってるんですってば!
「んん…」
ぎくっ。
「ん……」
神谷さん。今起きちゃ駄目です!
「……あれ?沖田せんせ……え…」
お伝えしましょう。
今の私は神谷さんの伸ばした両足を間に膝立ちをして、上から覆い被さるように帯に手を掛けています。
ええ。
絶対に誤解されます。
「…神谷さ…ん…あの…これは…」
違いますからね!貴方が無防備に乳とか腿とか足首とか晒してるから直してあげようとしてただけですからね!
と、声にしたいのに、言葉が出ません。
「…ふっ…」
ああぁ。泣いちゃいました!だからそういうんじゃないんですってば!
「…沖田先生は信じてたのに……」
うぐっ。
物凄く胸の痛みより、腰の方に痛みがきます。
その泣き顔で、その台詞は駄目です!神谷さんを恐がらせたという衝撃より…何故かもっと苛めたくなります!
私、実は酷い男だったんですね。
「ち…違うんです。これは神谷さんが自分で暑がって自分から布団剥いで、寝巻も着崩れていったから直してあげたんですよ!」
「え…」
真っ赤な顔をくしゃくしゃに歪めて涙を零していた神谷さんは、真顔に変わると目を見開いてこちらを見つめます。
「全く、寝相が悪いにも程がありますよ。私だから良かったものの、他の人が最初に気付いたらそれこそ襲われてたかも知れませんよ」
「…せん…せ…」
何処か探るような眼差しで神谷さんは私を見上げます。
「まさか勘違いしました?そんな私が神谷さんを襲う訳ないじゃないですか!貴方男なのに!」
これで、理解してもらえるはずです…ぐぅっ!
「沖田先生のバカっ!」
だから、そこは駄目ですってば!
神谷さんは私の下から抜け出すと、一目散に部屋を飛び出していきました。
どうして怒るんですかぁ。
安心するものじゃないんですかぁ?
私が疚しい気持ち一つ無く、親切心で解放していただけだって説明しただけなのに。
どうしていつもそこを蹴るんでしょうか。
…今度こそ男の機能駄目になりそう…そうしたら困るのは神谷さんなんですよぉ。

2012.10.14