明日、今日のいつか

■明日、今日のいつか・1■
*「きのうときょうとあしたと」番外編

「きっと、いつか…」
言った言葉は嘘ではない。
小さな少女の手を離した事は、約束の印。
私がいつかその少女の元へ再び赴く為の暫しの別れであるだけのこと。

そう。
思っていた。

幼かった竜である私は、神である事でさえも不安定で、依り代さえも失った状態で元の世界へ還るという事は容易なことではなかった。
それは少女と別れ、還ると決意した瞬間に覚悟を決めた。
それでも今にして思えば、私の覚悟は甘かったのだと思う。
成竜となり、その上で依り代も無く現し世で存在していける神と成れるまでは途方も無い時間と精進が必要だった。
ただひたすら己の全てを精錬し続けていくしかなかった。

一人の少女と共にある。

そんな己の欲の為に神である事を再度望む幼竜が更なる神通力を得る事を善しとする神などいるはずも無く。
神々に認められる事も、神通力を得る事も、神格を得る事も、全てが、困難だった。
蔑まされ、嘲られ、痛めつけられ、今度こそ己の存在そのものが世から消滅するのではないかというくらい追い詰められた。
一人の人間の娘の為に。
そう思った事もある。その一方で、
ただその娘の為だけに、己は生きているのだ。
そう悲観し、そして、歓喜した。
私は、どう足掻いても、もう、千尋から離れる事は出来ないのだ。

ただ。愛しくて、止まないたった一人の少女。
その少女の為だけに私は全てを無くし、全てを得た。

己の想いとは裏腹に、時は無常にも流れ続ける。
人間の時の流れが、神とは全く異なっている事を、私は知っていて、本当は何も分かっていなかった。
格別の成長を遂げた私を神々は欲に塗れた竜だと罵り、一方で、数千年にひとつの逸材だと賞賛した。
私は成竜となり、高位の神格を得、依り代が無くとも現し世で存在できるほどの神通力を身に付けた。
神々の世界では一瞬と言っても良い程のとてつもない速さでの成長である。
しかし、人間の時にしてみれば一つの節目を迎える程の時が経っていた。

千尋は既に私の事を思い出として今を生きているかもしれなかった。

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■明日、今日のいつか・2■
*「きのうときょうとあしたと」番外編

私が現し世に還る事が出来た時、人間の時で10年も経っていた。
私が成竜になるのと同様に、千尋も既に成人している程の年月が経っていた。
現し世に還った時、真っ先に千尋に会いに行こうと思った。けれど、行く事が出来なかった。
あれ程までに会いたいと願っていたのに。
傍にいたいと願っていたのに。
実際可能になってしまえば、今度は会うのが恐ろしくなってしまっていた。

私は、---千尋とどうありたいのだろう。

もし、千尋が既に人間の男と結婚をし、子をなし、幸せに暮らしていたのなら、私はどうするのだろう。
神として、見守る。
それだけでいい。
それだけでいいはずなのに。
それは、---酷く己の心を傷つけた。

「貴方がここに配属されてきた速見琥珀さんですか」
一人の老人がしげしげとハクの姿を上から下まで見つめた。
そして、徐に頷くと、嬉しそうに笑った。
「宜しくお願い致します」
ハクは己の姿のに何処かおかしいところでもあるのだろうか。と思わず自身を見直し、そして老人が笑うのを見てほっと息を撫で下ろした。
未だ現し世に慣れぬ身で、人間の習慣さえも全て分かっていないハクには自信がない。それなりに勉強してきたつもりではあるが、それでも人間と対し、平常を保つのは難しかった。
「…昔からいつかこの山に神社を作ろうと思っていました。私は小さい頃からこの山で世話になりました。朝から晩まで走り回って遊んだり、山菜を取ったり湧き水を飲んだり、この山と共に成長してきた。そしてこの辺りに住む者は皆、私と同じ様に育ってきました。皆この山が好きなのです。だからこそ観光地として売り出したいと言う輩もいたが、この山のありがたみも知らん余所者がこの山に入って荒らされるのだけは許せんくて、売らずに来た。」
「はい」
「散々な因縁をつけられて無理矢理この土地を奪おうとする者を沢山おりましたよ。けれどその度に何故か不思議と全てご破算になるような出来事が起こりまして。この山には神様がいらっしゃるんだなとこの山を守ってくださっているのだ。と思いました。私が生きている間は私が守る事ができるからいい。けれど私だって老い先短い身です。だからここに神社を建て、そういった人間の欲に巻き込まれぬよう守ろうと思ったのです」
「はい」
「貴方の瞳はとても澄んでいらっしゃる。実際に会って確かめようと思っていたのですが、貴方なら信頼してこの社をお願いできる」
「--」
「そしてまだまだ長い時を生きなさる。どうか私の意志をお守り頂けると嬉しいですな」
「はい」
ハクは真っ直ぐ己を見つめる眼差しを真摯に受け止めた。
彼がこの神社を任せられたのは、高位の神の計らいだ。
神にも様々な性質を持った神がいる。その中のひとりが彼に興味を持ち、現し世に戻るのなら居場所も欲しいだろうと、この地を与えた。
素性は教えられる事は無かったがとある神が長くこの土地を守っていたそうだが、手放さなくてはならなくなり、その後任にハクが任せられた。
丁度人間の世の理でその土地を所有する人間の男も社を建てるつもりでいたらしく、神主として入ったら良いと計らってくれた。
その神も『神が己を祀る為に社を建てる無様さが面白い』と笑っていたが。
「…こう言ったら笑われるかも知れませぬが、私はずっとこの土地の神様と夢の中でお会いしていまして。…また一層それで神様の為の社を作って差し上げたいと思っていたのですよ」
「夢の中で?」
ハクが問うと、老人はこくりと頷く。
「はい。…平安時代の姫君のようなお姿の神様です。いえ、本当に神様かどうかは分りません。けれど何となくそう思うのです。あの方はいつも笑いかけてくれます。辛い事も悲しい事もそれだけで全て無くなっていきました。あの方と共に私は生きてきました」
「…生きて…」
「こんな老人の世迷言。聞き流してください」
余りに真剣な顔をして聞くハクに老人は苦笑して、話を終わらせようとする。しかしハクは尋ねた。
「…もし……もし、その神様が、実際に目の前に姿を現したらどうしますか?」
老人は少し驚いた表情をすると、ハクの真剣な表情に彼も真顔になり、少し考え込むと答えた。
「…きっと声は出ませんな。何とお声かけしてよいか分りませぬから」
そう言って、老人は苦笑した。
「夢の中でお会いできるからこそ、お話ができるのですよ。きっと」

それから数日後、その老人は永遠の眠りについた---。

そして同時に、この土地に微かに残っていた前の神の気配が完全に消えた。

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■明日、今日のいつか・3■
*「きのうときょうとあしたと」番外編

神として千尋の傍にあり続けること。
人として千尋の傍にあり続けること。

私はどちらを望むのだろう。
既に彼女の中では、私の事は幼き日の記憶。もしかしたら、一時の夢だと思っているかも知れない。
これだけ目まぐるしく進む人の世で、たった数日の出来事を鮮明に残していくのは難しいことだろう。
千尋を信じていないわけではない。
「きっとよ」
そう不安げに聞き、私を必要としてくれていた彼女はきっと今も私を求めてくれているはず。
けれど。
人の世を生きるのなら、その想いを湛えたまま生きていくのは難しいだろう。
この世は、あの神々が訪れる世と余りにも異なりすぎている。

神社に正式に配属されてから日々雑務に追われていたハクは、何と無く油屋での日々を思い出して苦笑した。
真名を取り戻してから仕事の引継ぎをするとすぐに辞めてしまったが、時折他の神に付き合わされて尋ねるとその度に酷く驚かれる。
持て成す側が持て成される側に変わると居住まい悪く感じたが、それは従業員にとっても同様だったようで、元上司の前で粗相してはといつも以上に緊張しているのが見て取れた。
それでもリンだけはいつもと同じく「千に会ったか?」と頻りに聞いてきては「根性無しだな」と笑っていた。
「速見さん。今日はこれでお暇しますね」
社務所で雑務をしていたハクに声が掛かる。
振り返ると、近所に住む女性たち数人がこちらを見ていた。
まだ新しく建てられたばかりで追いつかない雑務を手伝う為に駆けつけてきてくれた人たちだ。
この神社はあの老人だけでなく、この土地で暮らす人間にとっても待ち望んでいたものらしかった。
ハクは丁寧に頭を下げると、「ありがとうございました」と述べた。
「いいんですよ!やっとこんな綺麗な神社が建てられたんですから!」
「本当に嬉しいわよね!これでもう観光地だ、何だって山を荒らされなくて済むしねぇ」
「それに速水さんみたいな美形に毎日会えて、目の保養よ」
口々に女性たちはそう言うと、「貴方も速見さん目当てでしょ」、「貴方だって」と笑い合う。
そのやり取りに、ハクも思わず笑みが零れた。
「速水さんは彼女がいたりしないの?」
女性の中の一人が、ハクに問いかける。
「いえ。いたことがありません」
「もう十歳若かったら私だって!」
「速水さん年上もいけないかしら!」
苦笑するハクに、女性たちは更に盛り上がる。
「皆さん結婚されているじゃないですか」
「そうは言ってもねぇ。あの旦那だし」
「うちだって、ロクなもんじゃないわよ」
そうは言うけれど、皆自分たちの家庭をとても大切にしている。
ハクはここ数日彼女たちと会話を交わしていてその事を理解していた。
「速水さんも早くお嫁さん貰ったらいいわよ。一人でここに勤めているのは寂しいでしょう?家族がいるっていいものよ」
「…そう、でしょうか?」
一人の女性にそう言われ、返すと、食って掛かるように皆一様に「そうよ!」、「そうよ!」と返され、ハクは気圧されてしまった。
「何だかんだ言うけど、やっぱり家族って大事よ!家族守らなきゃって思うだけで頑張れるもんなんだから!」
ぽんと胸を叩かれ、ハクは勢いに負けよろめく。
「それじゃ、また明日!」
女性たちは笑いながら去っていった。
彼女たちの笑い声が消えただけで、部屋の温度さえも一気に下がる気がする。
だから女性は凄い。とハクは思う。
女神も個性があり、独特だと思うが、人間の女性はまた違う。
短い命だからなのだろうか、それとも皆、母であり妻であるからなのだろうか、皆一様に力強い。
千尋もそんな風に生きているのだろうか。
そんな事を思う。
千尋もそんな風に生きていくことを望むだろうか。
人として生き、夫婦となった者と共に子どもを育て、共に年を重ね、互いを思いやり、そして老いて黄泉への旅路を歩む事を。

神と人との婚姻は昔からずっとある事だ。
しかしその中で本当に幸せな時を過ごしているのはほんの僅かだ。
油屋にも訪れる神と人の夫婦を迎えたことがある。
年若い姿をした神と、老婆。
あと数年もしたら、恐らく老婆は先に黄泉の国へ旅立つだろう。
それでも労る神の姿に、千尋と己の姿が重なった。
神に尋ね、神は答えた。--大抵の人間は神と人との時が決して重なる事が無い事を身を持って知る時己に悲嘆し自決してしまう者が多い。もしくは伴侶を失った神はそのまま荒神に変わる者を多くある。と。相手を深く愛せば愛するほど。
そして、神の伴侶となる事は、人を一時的にとはいえ神の巫女の位置に据える事だ。神と人の結婚は過去多くあるとはいえ、それを奨励する程ではない。祭りや宴席に伴侶を連れて行く事となればどの人間も他の神にそれなりの手痛い仕打ちを受けるものだ。その重圧に耐えられる豪胆な人間は、少ない。又人間を伴侶とした神も。とも。
だから大抵の神はどんなに深く愛しても、一時の遊びとしたり、神と知らせず人間のふりをして人間の一生に合わせてその間だけ現し世に下る者が多いのだ。と。
では、そこまで分ってして何故、貴方方は結婚したのだと。尋ねた。
それでも、神と人として婚姻を望むのは。
---唯、共にありたかったから。と。
神と人として出会ったのなら、神と人として愛し合いたかったから。と。

「私は、あの夫婦のようになりたいと望む。けれど、千尋にとってそれは幸せなことなのだろうか」
ハクも神だ。
様々な神々を見てきた。
だからこそ、---ハクには選べない。
千尋を少しでも苦しませる場に置くことを。
神格を捨てれば。そうは思うが、唯の異種族婚こそ更に障害は大きくなる。だから神格を得た。そして神通力を持つ事を選び、例え神と人の婚姻によって困難が待ち受けようとも守れるだけの力を得た。
それでも、千尋がそれを望むかは全くの別の問題だった。
己の望みの為に千尋を苦しめてまで傍にいる事を望まない。
千尋の傍にいたい。その為に己はここにいる。それだけは譲れない。だから会いに行く覚悟が出来たら会いに行こう。
神として見守る方が千尋の為となるのなら、神として彼女の生を見守ろう。
もし、人として彼女の傍にいられるのなら。

速水琥珀として、千尋が現し世での生を終えるまでの間、この地で生きることを決めた。

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■明日、今日のいつか・4■
*「きのうときょうとあしたと」番外編

千尋が初めてハクの神社を訪れた日。
気配ですぐに分った。
そして彼女の腕に、今も傍にある髪留めで、間違いなく彼女だと確信した。
幼かったあの頃よりもぐんと背も伸び、細かった体つきは丸みを帯びふっくらと女性らしい体型に変わった。
それでも瞳の奥にある力強さは変わらない。神々さえも惹きつける程の千尋の内側から溢れ出す魅力的なその輝きは少しも失われていなかった。
現し世に下り、彼女の前での己のあり方を決めかねて千尋と出会うのを戸惑い、その心も定まり、いざ会いに行こうと決心したら、千尋の方が先に彼の前に現れた。
嬉しくない訳が無い。
しかし、一方で目の前に現れた彼女に驚いた。
そして同時に喪失感が全身から血の気を引かせた。
彼女の隣には、既に人間の男性が傍にいたからだ。

--全ては遅かったのだ。

そう感じたら、彼女は、ハクの名を呼んだ。
そして、号泣し始めたのだ。

喪失感の後に来るのは、絶望。

己は彼女の中で、幼い頃に失った悲しみの思い出として残っていたのだ。
あの時の別れは、暫しの別れではなく、永遠の別れの対象となっていたのだ。
後にそれは全て己の勝手な誤解だと分ったが、その時の衝撃は彼の中でとてつもなく大きいものだった。
人として出会ったのなら、人として傍にいる。
それさえも彼女を傷つける事にしかならないのだ。竜のニギハヤミコハクヌシと生き写しの人間の速水琥珀は。

「昨日はご迷惑をお掛けしました!」
もう出会える事も無いだろう。
暫し人間としてこの地に留まりながら、神として千尋を見守り続けよう。そう覚悟を決めた翌日に、千尋は再びハクの前に現れた。
そしてそのまま毎日彼女は彼の元に通うようになった。
その中で、ハクは己が千尋の心を誤解していたのではないかという事を知る。
千尋はニギハヤミコハクヌシを忘れていない。
速水琥珀にニギハヤミコハクヌシを重ねている。
もしかして、彼女は今でもニギハヤミコハクヌシを待ち続けているのでは無いだろうか。
それは希望的予測であって、本当は速見琥珀を見ているのかもしれない。
ただニギハヤミコハクヌシに重なる速水琥珀が現れたので、懐かしさから人間の男性に惹かれるきっかけを彼女は得たのかも知れない。
彼女はやはり人間として伴侶を見つけ、生きていく事を望むだろうか。
その方が彼女にとって幸せだ。
既に彼女は人の世で生き、仕事を見つけ、家族も友人もおり、自分の居場所をきちんと確立している。
それを全て無くすことになるだろう神との婚姻をハクは押し付ける事は出来ない。
それでも、
微かな己の欲と、希望を込めて、彼女に作る。

おにぎり。

彼女はまたニギハヤミコハクヌシを思って泣いてくれた。
それだけで--ニギハヤミコハクヌシとしての心は救われた気がした。

もう、いいだろう。と。

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■明日、今日のいつか・5■
*「きのうときょうとあしたと」番外編

「ハク。私まだ怒ってるんだからね」
「うん。そうだね」
「…ハク。分ってない!」
油屋の一室、目の前に持て成された料理に目もくれず、千尋は目の前に座るハクを睨み付けた。
千尋が己を--ニギハヤミコハクヌシを見てくれているのだと思うと、それだけで顔が緩んでしまうハクには彼女の一挙一動は全てが愛しくて仕方が無かった。
「私はずっと、ずーっとハクを待ってたんだよ!」
「うん。そうだね」
更に緩むハクの表情に、納得のいかない千尋は更に頬を膨らませた。

千尋の傍で生きる。
それはもう変える事の無い願いだった。
千尋は速見琥珀の傍にならいてくれるかもしれない。
そう思えたら、また欲が生まれ始めた。

ハクよりも速見琥珀を見て欲しい。

心のほんの透き間にでもニギハヤミコハクヌシに対する想いを残す事に嫉妬を覚えた。
そう思う一方でニギハヤミコハクヌシとして千尋に向き合ってもらえる速水琥珀に対して嫉妬を覚えるが、それでも速水琥珀として千尋が感情の全てを向けてくれるのなら、傍にいてくれるのなら、
その想いの全てを速見琥珀に欲しいと願った。
どちらも己でありながら、何と言う強欲。
だから思い出のハクに速見琥珀を重ねるのではなく、速見琥珀自身と向き合ってくれるよう千尋に願った。

その後の事を思い出してハクは小さく笑う。
「あー!やっぱりハク反省してない!」
しっかりと彼の表情を捉えていた千尋は、声を上げる。
「そうだね…。千尋を信じていればよかった。すぐにでも会いに行けばそれでよかったのだね」
ハクは顔を上げると、千尋の目を見つめ、そして、嬉しそうに微笑む。
そうすると、千尋は顔を真っ赤にして、「そうだよ!」と恥ずかしそうに顔を背けた。

千尋はニギハヤミコハクヌシを忘れずにいてくれた。
彼女は彼女で現し世と思い出に惑わされ辛い思いをしていたらしかったが。
それでも、あの時の約束をずっと忘れずにいてくれた。
ハクと同じ想いを持ち、ずっと再会を願ってくれていた。

人間の速水琥珀が傍にいるよりも、竜のニギハヤミコハクヌシの傍にいてくれる事を望んでくれた。

それは、---速水琥珀として傍にいる事を望んでくれるよりも何倍も喜びに変わっていた。
やはり己の感情に嘘は付けず、
千尋の傍にハクとして傍にいられる喜びは、何よりもの喜びに変わった。

私はハクとして、千尋の傍に、伴侶として千尋と一緒に生きていきたい。

「千尋。愛しているよ」

ずっと欲して止まなかった愛しい少女--あの頃より成長した女性にハクは万感の想いを込めて囁いた。