澄んだ空気。清浄なる水。
廻る命は、己の命さえも癒す。
いつか還る我が命。
どうか果てる事無きよう。朽ちる事無きよう。
己がその姿、水と変わっても。
彼の地へ戻り、彼のものの側にいて、護る事が出来るその幸福。
浅はかな祈りと、優しい憧憬。
護り続けよう。その命廻る時も。
謳い続けよう。彼のひとには届かぬ言霊も。
護る事が出来る事。
それが幸福。
水の揺らめき。
空気は空に溶け、色を得る事で、清涼なる風と、清爽の天空を創り出す。
己が水。
己が空。
己が風。
己が空気。
形もつもの。それでいて形を成さぬもの。
意思を持つもの。
その本質は竜。
たった一つ護りたいもの。
護るべきもの。
ただそれだけの為に、一度追われた世界へ戻ってきた。
約束を違える事無いよう。
己の願いを叶える為に。
小さき手。幼き姿。
人間という、少女という、千尋という名の、彼が何よりも慈しむ少女。
人である姿は、少女に会った時の最後の姿。
彼のひとの側に。
そのまばゆき生命、終に果てる時まで。
護り続けよう。祈り続けよう。
そなたが幸せに生を貫いてくれれば、私の何よりもかけがえの無い幸福となるのだから。
水が跳ねる。
千尋が弾んだ音楽を足元に創り出す度、朝方降った雨で出来た水溜りに波紋を創り、跳ねる。
彼女の心を表すかのように。
ぱしゃん。と。
心が跳ねる度に、水が跳ねる。
そなたは今、幸せだろうか。
そなたは今、幸せであろうか。
柔らかな風となり、空気となり、千尋を見つめる。
ふと、跳ねていた足取りが縺れ、倒れそうになる。
気をつけて。
ふわっと、何気無く手を差し出し、彼女の身体を優しく抱き止める。
千尋は突然の事に目を見開き、そして振り返ると、嬉しそうに目を細め、
「ありがとう」
と、囁いた。
護らせてくれて有難う。
私を見つけてくれて有難う。
懐かしくて。嬉しくて。切なくて。
嬉しそうな笑みを浮かべながら、遠ざかって行く小さな背中に。
「ありがとう」
と、呟く。
空となり、空気に溶け。
風となり、水となり。
そなたの側に。
そなたの幸せを。
護り続けよう。
祈り続けよう。
願わくば、彼のひとの心の中に、ニギハヤミコハクヌシという郷愁が、生きる力となりますように。
2004.12.24