空気と水2

澄んだ空気。清浄なる水。
廻る命は、己の命さえも癒す。
いつか還る我が命。
どうか果てる事無きよう。朽ちる事無きよう。
己がその姿、水と変わっても。
彼の地へ戻り、彼のものの側にいて、護る事が出来るその幸福。
浅はかな祈りと、優しい憧憬。
護り続けよう。その命廻る時も。
謳い続けよう。彼のひとには届かぬ言霊も。
護る事が出来る事。
それが幸福。

水の揺らめき。
空気は空に溶け、色を得る事で、清涼なる風と、清爽の天空を創り出す。
己が水。
己が空。
己が風。
己が空気。
形もつもの。それでいて形を成さぬもの。
意思を持つもの。
その本質は竜。

たった一つ護りたいもの。
護るべきもの。
ただそれだけの為に、一度追われた世界へ戻ってきた。
約束を違える事無いよう。
己の願いを叶える為に。
小さき手。幼き姿。
人間という、少女という、千尋という名の、彼が何よりも慈しむ少女。
人である姿は、少女に会った時の最後の姿。
彼のひとの側に。
そのまばゆき生命、終に果てる時まで。
護り続けよう。祈り続けよう。

そなたが幸せに生を貫いてくれれば、私の何よりもかけがえの無い幸福となるのだから。

水が跳ねる。
千尋が弾んだ音楽を足元に創り出す度、朝方降った雨で出来た水溜りに波紋を創り、跳ねる。
彼女の心を表すかのように。
ぱしゃん。と。
心が跳ねる度に、水が跳ねる。
そなたは今、幸せだろうか。
そなたは今、幸せであろうか。
柔らかな風となり、空気となり、千尋を見つめる。
ふと、跳ねていた足取りが縺れ、倒れそうになる。

気をつけて。

ふわっと、何気無く手を差し出し、彼女の身体を優しく抱き止める。
千尋は突然の事に目を見開き、そして振り返ると、嬉しそうに目を細め、
「ありがとう」
と、囁いた。
護らせてくれて有難う。
私を見つけてくれて有難う。
懐かしくて。嬉しくて。切なくて。
嬉しそうな笑みを浮かべながら、遠ざかって行く小さな背中に。
「ありがとう」
と、呟く。

空となり、空気に溶け。
風となり、水となり。
そなたの側に。
そなたの幸せを。
護り続けよう。
祈り続けよう。

願わくば、彼のひとの心の中に、ニギハヤミコハクヌシという郷愁が、生きる力となりますように。

2004.12.24