触れることで、相手に好意があることを感じることができる。
触れることで、触れても良い自分がいるのだと確認する事ができる。
触れることで、言葉よりも体温で相手の心が直接伝わってくるような気がする。
だから、いつも温かい。
では、私の心は。
彼の人に、伝わってしまっているのだろうか。
ハクは帳場で机に向かうと、固まったまま全く動かなかった。
石のように、じっと座ったまま。
ただ地蔵のように、その場で眉一つ動かすことなく、固まり続ける。
兄役、父役が来ては、ハクの姿を見、声をかけるが微動さえしない。
結局最後には諦めるしかなく、ハクを残し、湯屋の営業は始まった。
思考がまともに働かない。
何一つ答えが纏まらない。
感情だけが暴走し、身体だけが空回りする。
もっと千尋を大切にしたいと願うだけなのに。
もっと千尋を幸せにしたいと願うだけなのに。
心と身体と持て余す感情は、ばらばらな行動を取るばかり。
こんな自分があっていいはずがない。
こんな自分であっていいはずがない。
今の自分は、自分ではないようだ。
千尋と出会ってから。
ハクの心は落ち着くことなく、常に揺らぎ、波紋を作る。
彼女に出会わなければ、今もーーーーーーー。
そこで、思考を強制的に遮断する。
それだけは考えてはいけないことだ。
それだけは決して考えたくないし、想像もしたくないことなのだ。
千尋がいなければ、千尋に出会わなければ、今のハクはなかったのだ。
おそらく、この世界に存在さえもしていなかっただろう。
それほどまでに、千尋をーーーーーー愛しいと感じる。
今はただ感情が不安定になっているのだ。
だからこんな想像もしたくない、悪い事ばかり思い浮かべてしまう。
ハクは、机に顔を伏せると、深く息を吐いた。