時空の守者-第二章- 水の中の真実1

 子どもの頃に一度だけ見た不思議な花。
 水の中で咲く白い花。
 それは水族館の一室に展示されていて、建物の天井と床を上下に走る透明な管の中で、青い照明を浴びてゆらゆらと揺れていた。
 私はその時初めてそれを見たはずなのに。
 一目見た瞬間、知っていると思った。

「お母さん!私この花知ってるよ!」
 父母と私。家族三人で来ていた私は、母にそう言った。しかし母は驚いた表情を返した。
「えぇ?テレビで見たの?」
「違うよ。ちゃんと地面に咲いてるのを見たもん」
 そう答えると、母は首を傾げ、父を見る。父は苦笑した。
「そんなはずないぞ。これはつい最近発見されたばかりの花だ。ヒカリツユハナと言って水の中で咲く希少な花だぞ。その辺に咲いてるはずないよ」
「だって見たもん!これお薬になるんだよ!」
「そうかそうか」
 父は相槌を打つと、それ以上取り合ってくれなかった。子どもの空想か何かだと思ったのだろう。
「見たんだもん…」
「葉乃。それ以上そんな事言っちゃ駄目よ。他の誰かに言っても駄目よ。変な子だって思われちゃうんだから」

 その日そう言われてから、私はその花の事を言うのを止めた。
 それ以上変な子だって、父にも母にも思われたくなかったから。
 誰か私と同じように見た事がある人が無いか確認する事もしなかった。
 確認する事で私が変な事だと思われて、父も母も変な子の親だと思われたくなかったから。
 だから私はもうその花に魅かれないようにした。