噂1

最近流れている噂がある。
「おい。聞いたか?この間街を歩いていた時に見たんだとよ。沖田先生が女と歩いてるところ」
「見間違いだろ。まぁ、仮にそうだとしても、どうせ子どもとかじゃなくてか?」
「違う違う。年の頃なら神谷か中村と同じ位。萌黄色の着物着ててさ、めちゃくちゃ可愛いんだよ。これが」
「しかも二人とも並んで歩いてるだけで頬染めてさ。初々しいったらありゃしねぇ」
「あれは沖田先生も本気だろうな」

セイは噂する隊士らを遠目で見つめていた。
今やその噂は屯所内に広まって、知らない者などいないだろう。
気が付いていないとすれば、それはきっと噂される本人だけ。
彼は野暮天だから。
そう思って、セイは否定する。
そんな訳ないだろう。きっとこんな噂、原田や永倉たちが黙って聞いているはずが無い。
既に公認の仲。と言うことだろう。
きっと近藤や土方は喜んでいる事だろう。彼が本気で好きな女子を見つけたのだから。
辛い過去を乗り越えて。
セイは空を仰ぎ、もう一度隊士を見ると、噂をする彼らの一人と目が合う。途端、慌てて視線を逸らされ、彼ら全員が彼女の存在に気が付くと、逃げるようにその場から去っていった。

セイは知らない。

彼女だけはその噂話に入れてもらえない。
彼女が、総司を想っている事を、皆が知っているから。
腫れ物を扱うように、皆が逃げていく。
今も背を向ける隊士たちを見送りながら、滑稽だな、と思う。
痛みは無かった。
涙も出なかった。
最後に総司と言葉を交わしたのは何時だっただろう。
そんな事をぼんやりと思った。