13.不器用な想い2

清三郎ことセイは局長の部屋で目の前にいる部屋の主である近藤とその隣に座す土方を前に彼らと同じ様に姿勢を正し、座していた。
「それでは相手の人間は全員殺したんだな」
近藤は静かに問い掛ける。
「申し訳ありません。捕縛するだけの余裕がありませんでした」
「いや。神谷君は十分によくやってくれた」
労う近藤の横で土方は話を進める。
「で、相方は?」
「腹を深く突かれましたが、幸い急所は外れました」
「そうか」
「今はまだ治療中です。私もすぐに戻りたいのですが」
己の意思を伝えるセイに近藤は頷く。
「ああ頼む。こちらは情報収集にあたる。君はそちらを任せる。必要な物があれば言ってくれ」
「はい。後々必要な物を抽出して文で提出致します」
「ああ。頼んだよ」
「はい」
セイは一礼をすると立ち上がる。
「総司は」
「?」
突然総司の話に切り替える土方に、部屋を出ようとしていたセイは不思議に思い、振り返る。
近藤がセイの向こう、障子の向こうに視線を向けている事に気が付くと、再度障子に向き直り、その向こうに映る人影に動揺する。
何時の間に。とも思うが、元々彼が気配を消す事などわけもない事に納得する。
「幹部を集合させてくれ。神谷君は行っていいぞ」
障子の向こうの総司に指示を与えた近藤に小さく頷く事でセイは返答すると、目の前に動かないままの人影がある障子を開ける。
そこには無表情に立つ総司がいた。
彼の瞳を見上げ、静かに苛立ちを湛えるような冷たい眼差しに、一瞬身を竦ませるが、視線を逸らすと、彼女はぱたぱたという軽やかな足音と共に彼の前から姿を消した。
「どうした総司」
近藤の命令を聞いていたはずなのに、その場から一歩も動こうとしない総司に近藤は首を傾げる。
「何を子どもみたいな駄々を捏ねやがる」
不思議そうに首を捻る近藤の横で、土方は言葉を吐き捨てるように総司を一喝する。
「…私には話してもらえないんですか?自分の部下が近藤先生にご迷惑をお掛けしたんですよね。だったら…」
微動だにしなかった総司が沈黙の後、漸く口を開く。
「お前が横入りする事じゃねぇ!」
「でもご迷惑を掛けたから幹部を集めるんでしょう!?組長として私は先に知っておくべきじゃないんですか!?それに神谷さんは何処へ行ったんですか!」
土方の冷たく投げ付けられた言葉に過敏に反応し、総司は捲くし立てるように問い掛け続けた。
そうして言った後、訪れた沈黙に、彼は言い知れぬ不安と後悔を覚えた。
「総司」
近藤が静かに口を開く。
己の名を呼ぶ声に込められた重い戒め。
この人が総司にとっての主であり、従う人間。
彼が何を思い、どう決断しようと、従うと決めたのは総司自身。
「出過ぎた真似をしました。--失礼します」
それだけを言うと、総司は部屋を出た。
後には小さな溜息と、苦笑が、既にその場を離れた弟分の耳には届かない程小さく響いた。