天空の羽 地上の祈りとともに12

(SE・足音 早足でユートラフィア王が大広間に現れる)
ユート王  「ウイルド!どういうことだ!ルーカ様を何処へ連れて行った!?」
ウイルド  「彼女は家に帰りましたよ。無事、役目を終えたので」
ユート王  「何だと?まだまだあの娘には利用価値があることは分かっているだろう!どうして帰した!」
ウイルド  「ルーカが本当に奇跡を起こしたのか。創造神が私たち人間の愚考を見ていられず、手をお貸しくださったのか分かりませんが、その日は晴天にもかかわらず、空から雪が舞い降り、兵士たちの傷が癒えていくという、本来ありえるはずの無い現象のお陰で、神の存在を信じるわけにもいかず、兵の士気は一気に下がり、私たちユートラフィアとタスティーナが同盟を結び、戦争を終結させるきっかけを与えた。形はともあれ、マスティアの占いは当たり、ルーカは平和へと導いてくれた。もう十分役目を果たしたのだから、帰っていただいたのです。」
ユート王  「これが平和の形と言うが、戦争前と何も変わらないではないか」
ウイルド  「変わっていますよ。ユートラフィアとタスティーナ国王、両者が話し合う時間を得ることができたではありませんか。もう国民を戦渦に巻き込むことなく、血を流すことも無い。後は私たちがすべきことです。神は何でもできる訳ではありません。一時の平和を与えてくださいますが、恒久の平和を与えてはくださいません。私たちがこれから作っていくのです」
ユート王  「そしてお前は、王座を略奪しようとした責任を取って、退位し、再び私に玉座を返した。誰一人として、お前を捕らえようとはしなかったのに」
ウイルド  「王を脅迫したのです。誰もが罪に問わないとしても、私は私自身を許すことはできない」
ユート王  「しかし、お前が第一継承者ということは変わらない。いつかはお前がこの国の王となるのだ」
ウイルド  「今の私には、まだまだその器が無いことが、今回のことでよく分かりました。私にはまだ知らなくてはならない事が山のようにあります。継承権が私にあるというのなら、いつか、自分自身を許せ、国民が私を王として受け入れてくれるよう努力しなくてはなりません」
ユート王  「そう。お前に本当に王位を渡すその日までこの国が平和であるためにもルーカ様が必要なのだ。彼女はすでに両国の重要人物。実際彼女が行ったことはただの演説にしか過ぎない。雪が降ったのが彼女の力なのかも分からない。けれど、どんな形であれ、戦の中で、全ての人間から注目され、結果として戦争を治めたと認知された。英雄なのだ。そんな彼女が普通の生活を送っているなど、あってはならないのだ」
ウイルド  「何故です?物事の始まりと終わりのきっかけなんて、いつだって他愛も無いものですよ。ただ一人の普通に暮らす娘だっておかしくは無い」
ユート王  「人のために、国のために貢献していただき、平和の象徴となっていただくことで、国民に一層の力を与えるだろう」
ウイルド  「ーーーーーーそうですね。そうかもしれない。王の仰られることはいつも正しい。けれど、私は何としてでも彼女の生活を守ってみせますよ。そう、絶対に彼女を巻き込むことは許さない」

ウイルド  「王が国民全体の心だとしたら、ルーカは国民個人の心そのもののような気がする。だから彼女の言葉がこんなにも心に響くんだろう。辛い時、苦しい時、人はつい心の何処かで神のせいにしたり、神の奇跡を求めてしまう。普段神を信じていない者でさえも。けれど、彼女は全て自分で何とかしようとする。だから彼女は神に愛され、護られているのだろう」

ウイルド  「彼女は普通に生きて、普通に毎日を暮らすのが、一番似合っているんだ。それが彼女の幸せなんだ」
(SE・窓を開ける音)
(SE・鳥が飛び立つ音 ウイルド、窓を開けると同時に鳥が空に飛び立つ)

END
2002.07.19