「・・それでね・・ハク・・」
千尋の話は、止まることなく続く。
彼に伝えたい事が沢山ある。
知って欲しい事が沢山ある。
彼に出会うまで、千尋はこんなにも沢山の言葉を持っている事に気づかなかった。
嬉しい。楽しい。
そんな思いを千尋は言葉にする事で表す。
ハクはそんな彼女の話にただ耳を傾けていた。
ひとつも彼女の言葉を逃さないように。
くるくる変わる千尋の愛しい表情を見つめながら。
あの時の事は何も覚えてないけれど。
約束を覚えていないけれど。
心が、体が、あの時を覚えてくれている。
千尋は千尋。
仕草も表情も、何も変わらない。
愛しい少女。
ずっと側にいたいと言ってくれる。
あの時の約束を果たして、今ここに彼がいる事を、彼女はこれからも気づかないでいるだろう。
そのままで構わないとハクは思う。
そのままでいいと思う。
過去の千尋に側にいて欲しいと望むのでない。
あの時の記憶を持っている千尋に側にいて欲しいと望むのではない。
千尋に側にいて欲しいと望むのだ。
側にいたいと。
「ハク」
今、笑顔を自分だけに向けてくれる千尋に、ハクの心は満たされる。
今在る、この幸福。
ずっと、そなたの側に。
共にいよう。
幸せになろう。
ふたりで一緒に幸せになろう。
2002.12.25