走る。
どこまでも。
青い青い空の下。
何処へなんてわからない。
けど、知ってる。
ただそこへ向えばいい。
地図は予感。
方位磁針は胸の高鳴り。
追い風が背中を押してくれる。
だから、怖くない。
一歩近づくほとに、胸のどきどきは大きくなっていく。
その日は起きた時から何かが違っていた。
いつもはだるさを感じながら目が覚めるのに、その日に限ってはぱっちりと目が覚めたのだ。
そして、胸の鼓動は眠っていたにも関わらず、逆にいつもより大きく、どきどきして止まらなかった。
遠足の前日、運動会の前日、友達と遠くへ遊びに行く日、家族で旅行する日。
わくわくして、どきどきして、嬉しくて、楽しみで、眠れないことが誰にでも一度や二度あるだろう。
そんなどきどきと一緒。
いつもと何一つ変わらなく、学校へ行き、授業を受けるだけだと言うのに。
特別な事は、何一つ無いというのに。
そしてその中には、いつもと違うどきどきが隠れていることも感じていた。
プレゼントを貰った時に、その箱を開ける、あの瞬間のどきどき。
何が入っているのか分からない、不安と期待。
どうしてそんなどきどきしているのか分からないはずなのに。
はっきりとしないはずなのに。
何故かはっきりと分かる。
胸の鼓動は確信している。
それを人は普通『上機嫌』と呼ぶのかもしれない。
けれど、そんなものじゃないことは知っていた。
言葉にするなら、『予感』。
小学校最高学年、6年生になって、太陽の日差しが強くなり始めた頃。
世間で『神隠し』と呼ばれる、『不思議の町』に行ってから、2年目の夏。
荻野千尋は、言葉にすることはできない、はっきりと確信している『予感』で目が覚めた。
だから走ったのだ。