「ハクなんか大嫌い!」
それが千尋が別れ際にハクに残した最後の言葉だった。
いつも待ち合わせをする花や木が四季に関係無く咲き乱れる油屋の庭。自分から少しの時間も一緒にいたくないと拒否するように離れ去っていく少女の後姿を見つめながら、ハクは己の胸を釣らなくあまりの衝撃に彼女を引き止める言葉を発する事も、その場から動いて追うこともできず、ただ身体は雷でも打たれたかのように硬直し、身動き一つ取ることができなかった。
耳に残るのはただ三文字の言葉。
彼にとってふたつとない何よりもかけがえのなく愛しい者からの拒絶の言葉。
その衝撃をどう受け止めてよいのか術も分からず、飲み込む事もできず、ただ耳に残り続ける言葉と、今にも破裂して止まりそうな心臓の拍動をありのまま受け止め、痛みをじっと耐えるしかなった。
原因は千尋を愛しく想い過ぎた為ーーーーだと、本人は自覚する。
けれど、愛しくて、嬉しくて、想いを止める事ができなかったのだ。
ただ想いを言葉にする事が嬉しくて。
受け止めてくれる千尋が愛しくて。
こんなに胸を痛める結果になるとは思わなかったのだ。
愛しい者からの、己を拒否する言葉。
それを告げられるだけで、こんなにも心が虚ろになるとは思わなかった。
愛しいと想う事で、嫌われるとは思わなかった。
愛しいと、彼女は答えてくれたから。
ハクを愛しいと言ってくれたから。