天空の羽 地上の祈りとともに9

(SE・馬の走る音 ルーカ、ウイルド馬に乗って戦場へと急ぐ)
ルーカ   「いやー気持ちいいね。偉そうに話すってのは。もう偉そーに歩くだけで皆、道譲ってくれて、馬までくれてさ。まーあいにく私は馬に乗れないから、ウイルドに乗せてもらってる立場だけどさ」
ウイルド  「さっき言った事全部嘘だったのか!?」
ルーカ   「嘘じゃないよ。多分」
ウイルド  「多分!?」
ルーカ   「私には何の力も無い。勝手に御子なんて言われてるけど、神頼みで何かできるわけじゃないし。ただ勝手につけられたネームバリューだけ。そこで何ができるのかなーと思って」
ウイルド  「その舌先三寸があるだろ」
ルーカ   「そーなんだよねぇ。考えたんだけど、口なら幾らでも言えると思ってたんだけど、戦ってる最中どう話を切り出せばいいのかなってねぇ・・・。まぁいいさ。やれるだけやってみるーーーーー絶対に止めるから」
ウイルド  「見えてきた!」
(SE・戦場の音 戦いの声等)
ルーカ   「止まって!」
(SE・馬の嘶き)
ウイルド  「どうし(た)・・」
ルーカ   「(ウイルドの言葉遮る)黙って。この高い崖からなら戦場全体が見渡せる」
(SE・戦場の音 暫し流れる)
ウイルド  「・・平和・・。ルーカ、城へ行こう!王に戦争を止めさせるんだ!」
ルーカ   「駄目。それじゃあ時間がかかる。さらに多くの人が死んじゃうよ」
(SE・戦場の音)
ウイルド  「っ!オレは城に行く!王に進言する!」
ルーカ   「うん。行けばいいよ」
ウイルド  「っ!?」
ルーカ   「私はここで戦争を止める。(気持ち切り替えて)全部終わったらさ、ぱーっと遊ぼうよ。私の町においで。皆に王子様が友達だって自慢しちゃる。んで、格好いくて金持ちの男の人紹介してよ。折角つてができたんだから。 うまくやって玉の輿狙うのもいいかも。うーん楽しみ。約束だぞ」
ウイルド  「(苦笑する)・・分かった。・・・・金持ちで将来有望な奴紹介してやるよ」
ルーカ   「わぁお!約束だかんね!」
(SE・馬の足音FO ウイルド、ルーカを置いて、去っていく)
ルーカ   「・・創造神ジヴァル・・。私たちを見守って、〝奇跡〟という事象で私たちに救いを与えてくれる・・・。豊かな実りを与える光・・傷を癒す風・・・。私はジヴァルに護られている・・・」

ルーカ   「利用されるもんか。ーーーーー絶対生きてやる」

(ウイルド、城に戻り、足早に王の元へ向かう)
(SE・扉の開く音)
(SE・足音 ウイルドが謁見の間の扉を開け、早足で王の元に進む)
ユート王  「ウイルド!タスティーナに捕らえられていたのでは無かったのか!?いや、それより、無事で良かった」
ウイルド  「ーーーーー」
占術師   「ルーカ様はどうされました?ご無事なのでしょう?」
ウイルド  「ーーーーーー王。今すぐこの戦争を終結させてください」
ユート王  「ウイルド・・・。タスティーナに捕らえられて毒されたか?」
ウイルド  「この戦争に意味はありません」
ユート王  「長年続けてきたこの戦を今さら否定するか」
ウイルド  「私たちは統合の行い方を間違っていました」
ユート王  「仕掛けてきたのはタスティーナの方なのだぞ!」
ウイルド  「王!」(エコーかけて、部屋中に反響するような感じで)

ウイルド  「・・私が生まれた時から戦は始まっていました。だからそれまでの経緯については何もお聞きしません。 ただ今すぐ戦いを止めてほしいのです」
ユート王  「ウイルド。何の権利があって私に意見する。お前はユートラフィアに敗北しろと言うのか。今まで命を懸けてきた国民にどう詫びろと言うのか。理想を忘れたか。二国を統合し、より恒久的な平和を生み出すという理想を。タスティーナ王には大国を治めるだけの器は無い。私たちならそれも可能だ。いつかはお前が治めることになるのだ。勝機は見えている。予想外ではあったが、幸か不幸か、我が国の勝利を導く御子を敵国に幽閉され、国民の怒りが高まり、それが士気に変わっている。あと数日で完全な勝利を手に入れられると言うのに、今すぐ戦を止めろと言うのか。気でも触れたか」
ウイルド  「あなたは何のために戦っているのか」
ユート王  「国民のためだ。国民に安全と安定の生活を与えるため」
ウイルド  「あなたが言う、〝国民〟とは誰のことですか。御子を利用しましたね。ここに御子はおりません。私の勝手な推測かもしれないけれど、私が彼女を連れ帰ったら、貴方はさらに彼女を利用するつもりだったでしょう。『国民が心配し、戦ってくれたお陰で、タスティーナを動揺させ、王子が御子を救い出すことに成功した』とでも。 その言葉をかけることで国民は自国が優勢であることに気づき、一気に勝利を得るために、さらに兵士の士気が高まるでしょうね」
ユート王  「当然のことだろう。私は嘘など一つも言っていない」
ウイルド  「確かに。・・そして勝利した後、ルーカをどうするおつもりですか」
ユート王  「勿論・・」
ウイルド  「(ユート王の言葉を遮る)新しい国の聖女として崇め奉り、外界と一切触れさせないようにするか・・この戦で故意に亡くなっていただくかのどちらかですか。国民に近すぎれば、国民は王よりも御子を指導者として認識する。王はただのサポート役として見られる位でしょう。それでは国を統合した王も動きづらいですからね」
ユート王  「・・・残念なことだ。しかし王は国を治めていかなくてはならない。王は神ではないのだ。どうしても全ての民を平等に幸福に導くことはできないのだ。その幸福を一人でも多くの人間に与えることが全てなのだ。それは分かっているだろう」
ウイルド  「『国民全員のために、一人が犠牲になる』」
ユート王  「悲しいことだが仕方が無い」
ウイルド  「『人一人の人生は国より軽い』のか」
ユート王  「そんなことはない。ただ王には不可能なことが多すぎる」
ウイルド  「・・・(苦笑)、ルーカの言った意味が良く分かる。今頃になって・・・」
ユート王  「あの娘の戯言の影響か!?お前まで!あんな現実も、他人の感情も考えず、自分の考えだけを正しいとし、押し通そうとする身勝手な小娘の戯言を信じるか!」
ウイルド  「・・・私たちは何かを見失っていたのかもしれません。・・そう思えるようになったのです。確かにルーカの言うことは理想であって現実的でありません。けれど見失ってはならない心です。現実では行えないと思っても、理想を持ち現実を理想に近づけていくのが人間でしょう」
ユート王  「国を運営する上であまりにも夢話であってはならない。現実で可能になるような理想を持つのが当然のことであろう。夢だけを見ていてはならないのだ。・・悲しいことだがそれが現実だ」
ウイルド  「私たちが今理想とするものは何でしょうか。・・国民・・皆・ ・誰のことを示すのですか?私たちは集団を見ることにより、個人を見ることを忘れていませんでしたか?今、前線で戦っている国民一人一人に人生があり、戦うための理由をそれぞれ持ち、命を懸けています。沢山の命が消えていきました。もし戦争に参加しなければ、巻き込まれなければ、もっと安全に安らかに暮らせたかもしれないのに。・・平和とは誰のための平和でしょうか?その命一つ一つを個人が背負うことなどできません。できるはずが無いんです。私たちは分かっていたつもりで、何も分かっていなかったのかもしれない。・・そんなことを彼女は思い出させてくれたのです」
ユート王  「戦争はいつの時代もなくならない。王は例え背負うことができないとしても、命の重さを背負わなくてはならない。戦争だけではない。疫病、飢饉、全てが王の責任となる。王とはそういうものだ。個人を尊重するのは確かに大切だ。持っていなくてはならないものだ。しかし、一個人を尊重するために、国民全員を不幸にするのか?」
ウイルド  「ーーーーーオレは気づきました」
(SE・剣を鞘から抜く音 スラッっと剣を抜き、王に突きつけるウイルド)
ユート王  「ーーーーーーっ!・・何のつもりだ。ウイルド」
ウイルド  「犠牲になるのは王だけでいい。不幸になるのは王だけでいい。王が犠牲になることで、国民はいつも幸せになる。働けば働くほど、国は豊かに。王が幸せになる必要などないのです。これは王が幸せになるための戦。どちらの王が新王国の王になるかなど、権力の取り合いに国民が巻き込まれる必要など無い。これが私の答えです」
占術師   「王!」
ユート兵1 「王子!」
ユート王  「動くな。私は大丈夫だ。----ーウイルド。私の喉元に剣を突きつけ、それでどうするつもりだ?戦を止めるつもりは無い。王として今さら止めることはできぬ」
ウイルド  「・・王の理想通りに事は進んでいます。国民は士気を高め、タスティーナを落とすでしょう。そして・・・。ルーカは今、戦場にいます。この戦を止めるために。彼女は普通の人間です。何もできるはずが無いのに。彼女がどんな方法をとるか分かりませんが・・このままでは死なせてしまう。幸せに暮らしていたはずなのに。私たちが占いなどというものに頼り、巻き込んだために。そんなことはさせない」
ユート王  「ウイルド・・お前・・」
ウイルド  「私にできることはただ一つです。私が王になり、この戦を止めればいい。私にしかできない。王位継承は本来儀式を必要とするが、基本的には前王から王位譲渡の旨を口頭で伝えられればいい。ーーーーーー譲っていただけますか?」
占術師   「気でも触れられましたか、王子!お止めください!」
ユート王  「・・脅迫するつもりか。こんなことをしても、誰もお前を王とは認めないぞ。犯罪者として捕らえられてしまうだろう」
ウイルド  「ーーーーー構いません。今は王としての地位が必要なのです。罰は後で受けます」
ユート王  「・・息子ながら愚かな。後継ぎとしてもう少し見込みがあると思っていたが・・たった一人の娘のために狂わされおって・・・」
(SE・剣が床に突き刺さる ウイルドが王の目の前で振り下ろす)
ウイルド  「あんたの御託はもういい!こうしてる間にも、ルーカは・・っ!国民は・・っ!」
(SE・足音[複数] 兵士たちウイルドを取り巻く)
ユート王  「兵たちよ。動かなくて良い。・・マスティア・・お前の占いが初めてはずれたな・・」
占術師   「・・王・・」
ユート王  「ーーーーーー王位を、今、これより、第一継承者ウイルド・ウィン・ユートラフィアに譲る」