(タスティーナ謁見の間に通される、ルーカ、ウイルド)
タス王 「お会いできて光栄です。ルーカ・ナイエ様。想像していた通り、お可愛らしい御方ですね」
ルーカ 「(喜んで)まぁ・・。どっかの王様とは大違い。タスティーナの王様は女王様だったんですね。知識不足で知りませんでした」
タス王 「そうですか。女性でも王の器量さえあれば治められるのですよ。私(わたくし)自身まだまだ未熟ではありますが現在は僭越ながら私が治めさせていただいております」
ルーカ 「はぁぁぁぁ(凄いという感じ)」
タス王 「お呼びした理由ですが。ルーカ様がお持ちのお力のこと、噂には聞いております。そして貴女様のお姿は、私の国の占術師の予見の中にも現れておりました。我が国を平和へと導く光として」
ルーカ 「滅ぼすんじゃなくて?」
ウイルド 「平和を導く人物として・・?」
タス王 「・・ユートラフィア王子までこちらにお呼びした覚えは無いのですが」
ルーカ 「おおっと!気にしないでください。私が連れてきたんです。王様相手だと緊張するから。彼は手に鎖をかけたままなのでなーんにもしませんよ。・・駄目ですか?」
タス王 「いえ、ルーカ様がそうおっしゃるなら構いませんよ。けれど緊張することなんて何もございません。御子様であられることですでに私よりも位の高いお方となるのですから」
ルーカ 「・・あはははは・・」
タス王 「ルーカ・ナイエ様がユートラフィアのためにお力を貸していることは知っております。それを知りながらあえてお願い致します。タスティーナのために御力を貸していただけませんか?」
ルーカ 「・・つまり、それはユートラフィアに付くのを止めて、タスティーナに付いて、戦争を勝たせろと」
(SE・鎖の音 ウイルド驚いて体を動かす)
ウイルド 「なっ!ルーカ、そんな話に耳を貸すな!お前はユートラフィアに付いてるんだぞ!」
タス王 「ルーカ・ナイエ様がユートラフィアご出身なのは存じております。自国を大切にするのは当然のこと。それを知ってなおお願いしたいのです。本当のことを言いますと、神の御力よりも私は貴女様自身がほしいのです」
ルーカ 「私自身?」
タス王 「ユートラフィアでの国民演説のお話は聞きました。ごく平凡な少女でいたはずなのに、威風堂々とした登場、そして・・ユートラフィア王とどのような経緯があったのか存じませんが、神に護られし御子として紹介されたにも関わらず、その場で御子であることを貴女は否定された。勇気のある行為です。勝機が見えたと思った国民はどれだけ落胆したでしょう。しかし、それだけでは終わらなかった。国民に、すがり頼り、いざとなったら全ての者の代りに犠牲となる偶像的存在を作らせずに、個人の責任を律する勇気を与えた。国の指導者でもそう簡単に納得させるだけの説得力を持ちえません。独りよがり、傲慢にしか取られないことも少なくないでしょう。ましてや演説中の緊張感ある中では不可能に近い。それを容易(たやす)く行われてしまったルーカ様自身の御力を貸していただきたいのです」
ルーカ 「・・・褒められてる」
ウイルド 「まさかタスティーナに付くって言わないだろうな」
ルーカ 「まあ・・勇気あるというか無知で無謀とも言うんだろうけど・・・。神の御子という幾らでも代わりの利く、体(てい)のいい生贄と、方や私自身を評価してくれて、神様に護られてるとかは二の次・・・ちょっとどきどき?」
ウイルド 「おい!」
タス王 「ルーカ様は、ユートラフィアを平和に導くお方でいらっしゃる。けれどタスティーナを平和に導く方でもいらっしゃる。つまりこちら側に付いていただくことも十分可能なのです」
ウイルド 「ルーカ。絶対にこんな話に乗るな!ユートラフィアが負けたらどうなる!お前の故郷も占領されるんだぞ!」
タス王 「お静かにしていただけますか、ユートラフィア王子。声を荒げられるなどみっともない。私はそんなことしません。国民の生活は何も変わりません。王が変わるだけです」
ルーカ 「・・失礼ですが、あなたは統合した大国を治めるだけの器が自分にはおありだと・・」
タス王 「本心を申し上げれば、私にも分かりません。先は見えませんから。けれど王たる者が己を信じずに国を動かすことなどみすみす国を傾けるだけです。私が大国を治めるだけの器を持っていると自信があります」
ウイルド 「王が自身を持っているだけで民がついてくるとは限らない。自らを驕り高ぶったただの愚王だという懸念は少しも持たないのか」
タス王 「ユートラフィア王は自分の政策を信じず、民に制を布(し)くのですか?」
ウイルド 「何だと!王はいつだって自分の決断が最も正しいものだと信じておられる。だがいつも正しい決断を下しているとは限らない。自らの意見を正しいものと考えたことは無い。臣下の助言を得、吟味を重ね、自分の決断を正しいものとしたからこそ、自信を持っておられるんだ」
タス王 「私も同じですよ。吟味した結果だからこそ、自らの行いを信じています。それが今あるタスティーナです」
ウイルド 「しかし、タスティーナはここ何年も変革が見られる事は無い。変化の無い安定した国を治める王がいてもいいだろう、しかし統合したら、その安定を求めるためにそれこそ無数の変革を行わなくてはならない。貴方にその器量があると言えるのですか?」
タス王 「前王は数多くの変革を行いました。今はそれを十分に浸透させるための充填期間、安定期です。変革を起こす必要が無いだけです」
ウイルド 「そんなはずが無い。問題はいつだってなくなるはずが無い」
タス王 「無くなったとは言っておりません。今は必要が無いというだけです。多くの変革を必要とする時期もあれば、何もする必要が無い時期もあります。それを見誤ると国を傾けるだけだと言っているのです。今の状態でこれ以上政令を増やせば、国民は混乱するでしょう。必要な時期がくれば行います。それが十年、二十年、百年後かもしれませんけれど。国の歴史とは人の一生より長くゆっくりと流れるものですから」
(間 タス王、ウイルド、2人とも口を閉じる)
ルーカ 「・・・なぁーんかさぁ、さっきから腹立って仕方無いんですけど」
ウイルド 「ルーカ?」
ルーカ 「何?結局この戦争ってのは『私の方が偉いんだ』って威張ってる王様2人の我儘の喧嘩に付き合ってるだけってこと?」
タス王 「治める王を決めることは大切なことでしょう」
ルーカ 「ふざけんな☆そんなのあんたたちが相談するでも喧嘩するでもして勝手に決めやがれ☆」
ウイルド 「それじゃ、国民が納得しないだろう!」
ルーカ 「あーた。戦争やって、国の人間殺しておいて誰に納得してもらうつもり?もっと他にやり方があるはずでしょ?民意を知りたいなら、選挙でも何でもあるでしょ」
ウイルド 「その通りかもしれない。けれど戦争はやりたくてやっている訳じゃない。タスティーナが初めに攻めてきたんだ。抵抗しなければ武力という形で統合されてしまう。それでもいいのか?」
ルーカ 「・・国が無くなるのはやっぱ寂しいとは思うけど、前も言った通り、私たち一般人には王様がどうとか関係ないの。安全と今まで通りの生活が保証されれば。そんな事言ってたら、王様、代替わりだってできないじゃん」
タス王 「それとこれとは違います。それにそんなの勝手ではありませんか。王はこんなにも尽くしているのに、国民は見捨てるのですか」
ルーカ 「はぁ・・・(溜息)。あんたたちが徴兵して国民を戦わせてるのは勝手じゃないの?」
タス王 「国を守る為、自ら兵となって戦ってくれているのです。私は国を守る為いつも戦っています。国民に協力を求めるくらい構わないでしょう」
ルーカ 「・・望んでねぇ・・。王様は一人一人どんな思いで兵士たちが戦っているのか知ってるの?・・多分誰一人同じ答えの人なんていない・・。誰かを守る為・・。復讐するため・・・。そんな国民の一人一人の一生を背負うことができるの?」
ウイルド 「それは勿論覚悟している。オレは国民に戦わせておいて、後ろに下がって守られ指揮するのは耐えられなかった。権力も何も無い、一人の人間の立場に立ったオレにできることは少なかったが、それでも、共に国民と戦いたいと思い、前線に赴いた」
ルーカ 「そう!王様は責任が重いとか、国のために考えてるとか言ってるけど、私にはただの欺瞞にしか聞こえない!今も前線で戦ってる人たちがいる!命懸けてる!あんたたちは何やってるの!何処にいるの!格好良いことばっかり言ってるけど、結局命が惜しいからここにいるんじゃないの!誰かに命令してじゃない、自分の手で人を殺したことある!?血で汚れた人間の気持ちが分かるの!?気に食わないことがあんなら自分も一緒になって戦いなさいよ・・・。いっつも戦争は王様の勝手で決まる。しかもすっごく個人的感情でくだらないものばかり・・。巻き込まれる人間の気持ち考えたことあるの?くだらない喧嘩なら本人同士だけでしてよ!」
(SE・ドア開く音 勢いよく扉が開き、兵士が入ってくる )
タス兵1 「申し上げます!ユートラフィア軍が今までとは比べものにならないまでの勢いで、城に向かって前進してきます!」
タス王 「まさか、何故。今までずっと膠着状態ではありませんでしたか」
タス兵1 「・・それが・・。ユートラフィア城で祈りを捧げていた『神に護られし御子』がこちらの暗躍で捕らえられ、タスティーナを滅ぼす者として幽閉され、拷問を受けているという噂がユートラフィア側に何処からか流れ始めまして・・・」
ルーカ 「何それ!確かに牢屋に入ってたけど、全然違うじゃない!どういうこと!?ウイルド!?」
ウイルド 「・・・」
タス王 「・・なるほど。どんな状況でも使ってみせると・・。国の勝利のために一心に祈っていた少女が、敵国の汚い策略にはまり、捕らえられてしまった。国民にこのままでは国が滅んでしまうという危機感を与えると共に、自分たちに力を与えるために捕らえられてしまった哀れな御子のために、今こそ力を合わせ、このタスティーナという悪を滅ぼそうという正義感を高める。・・大したシナリオですね。ユートラフィア王の描くものは」
ルーカ 「ふざけんな」
タス王 「ユートラフィア王はいつでも自分の思い通りにならなければ武力を行使する。男というのはいつもそう」
ウイルド 「王はそんなことしない!」
タス王 「ユートラフィア王の申し出を断ってから、この城に暗殺者を放ったのか、私は何度も命の危機に脅かされきました」
ウイルド 「ーーーーーオレはそんなこと」
タス王 「決して正しいことをしていると言えない以上、王子に伝える事の痛みを覚えるくらいの良心はあるようですね」
ウイルド 「ーーーーー」
タス王 「私は女性であるが故に、命の重さを知っています。産む痛み、喜びを知っている。男はそれを知らないから、命を軽んじ、己の意に添わぬことがあれば、戦いになるのでしょうか。争いを好むのでしょうか・・。最初に兵を仕掛けたのはそちらの国なのですよ」
ウイルド 「何を言う!最初に仕掛けたのはそっちだ!兵たちが戦い今戦場となっている、元、町であった地をを炎の生みに鎮めたんだろ!」
タス王 「本当にそれが真実だとお思いですか?」
ウイルド 「ーーーーーーー。・・まさか。それも王が・・・・?」
タス王 「平和を望む。その心は同じはずなのに、どうしてこんなにも違うのでしょう」
ルーカ 「人の理想論なんかどうでもいいよ!誰のせいとかそんなこと後でいい!止めなくちゃ!皆死んじゃうよ!」
(SE・足音 ルーカ謁見の間を出ようと走る)
タス王 「お待ちください!ルーカ様!何処へ行かれるのですか!?」
(SE・足音停止 ルーカ足を止める)
ルーカ 「不本意にも私のせいで戦争が始まったって言うなら、私が生きてるって姿を見せれば、皆戦いを止めるはずでしょ!」
タス王 「危険です!」
ルーカ 「ーーーーーだから、あななたちが今いる場所は何処って聞いてるの。今戦っている人たちは、命懸けて戦ってる。危険がどうとかの次元じゃもうない!あるのは生か死だけ。私はそんな人たちを犠牲にしながらのうのうと贅沢して暮らす気はさらさら無いの!」
(SE・足音 ルーカ再び走り始める)
タス王 「とっ・・止めなさい!」
(SE・足音[複数] ルーカを兵士たちが止めようとする)
ルーカ 「邪魔しないで!」
(SE・打撃音 ウイルドがルーカの前を遮る兵士を倒す)
ルーカ 「ウイルド!」
ウイルド 「鎖があったって動ければ戦えるんだよ!行くぞ!ルーカ、皆を止めるんだ!」
(SE・打撃音[複数] 次々とウイルド、兵士を倒していく)
ウイルド 「ぐあっ!」
(SE・重い物が落ちる音 ウイルド、兵士の一人に押さえつけられる)
タス兵2 「動くな!動けば次はお命がありませんぞ。ルーカ・ナイエ様もお動きなされませぬように」
ルーカ 「・・あなたは何のために戦うの?王のため?国のため?自分のため?」
タス兵2 「私は王に忠誠を誓いました。王の命を受け、貴女をお止めしなくてはならない」
ルーカ 「私が今、ここにいるだけで、何人、何十人の人が死んでるかもしれないの。不本意だけど、私のせいで」
タス兵2 「この戦いで決着がつくでしょう。長い膠着状態からやっと動き出したのです。我らが勝利し、平和を得るのです」
ルーカ 「人間同士が殺し合い、命がどんどん消えていくことの勝利って何?誰が誰に勝つの?」
タス兵2 「貴女は大変聡明でいらっしゃる。けれど現実を知っていらっしゃらない」
ルーカ 「物事の本質に正しいものなんて一つも無い。質問を答える事から逃げないで」
タス兵2 「ーーーーー」
ルーカ 「私は利用されるの大っ嫌い。私のせいで人が死ぬなんて耐えられない。いっそ知らないままだったら良かったのに。知ってしまったら辛いじゃない。私は例え、誰かに利用されていただけなのだとしても、責任を感じない訳にはいかない。私には人の一生なんて背負いきれない。はっきり言って、背負いたくない。まっぴらごめん。私は私の為だけに生きるの。だから私は、私自身を守るために戦うの。戦争と」
タス兵たち 「ーーーーーーー」
ルーカ 「ウイルドを放して」
タス兵2 「・・・できません」
ルーカ 「ーーーーーー放しなさい」
(SE・鎧の音 タス兵2、ウイルドから離れる)
ウイルド 「・・ルーカ・・」
ルーカ 「道を開けて」
(SE・ガヤ、足音 兵士たち皆動揺しながらも道を開ける)
ルーカ 「行こう。ウイルドーーーーーーーー(兵士たちに向かって)ありがとうございました」
(SE・足音FO ルーカ、ウイルド去る)
タス兵2 「ーーーーールーカ・ナイエ様・・・」