ルーカ 「つまりですね。私がいらいらしたまま寝床に戻ろーとしたところをウイルドがまるで振られて逆ギレした男のごとく追いかけてきて、『あなたとはもう終わりよ』『もう一度だけチャンスをくれ、もう一度だけやり直そう』等と喧嘩に白熱していたところを、まさか敵国のキャンプにまで乗り込んで来まいなどと侮っていたのを逆手に取られ、隠れていたタスティーナの兵が『へっへっへーお嬢ちゃんちょっといいいとこいこうかー』『いやっはなして』『彼女の手を離せー』と言う間も無く、まんまと王子の侍女と称していた神に護られた御子様とやらを見破り、ばればれだっつーの、王子様と一緒に抵抗する隙も与えずに気絶させ、あえなく二人は目が覚めたら、多分タスティーナ城の地下牢で、鎖に繋がられたりしています。以上説明終わり。若干脚色有り」
ウイルド 「・・誰に向かって説明してるんだ」
ルーカ 「そりゃー聞いてるお客さん」
ウイルド 「そこでチョロチョロ動いてる鼠の事か?」
ルーカ 「まーそういうことにしておきましょ」
ウイルド 「何がだ。嘘並べやがって。オレたちは単に気絶させられて、タスティーナに捕まっただけだろうが!」
ルーカ 「だっせー」
ウイルド 「悪かったよ!守るって豪語しておきながらあっけなく捕まって!王になんと詫びれば・・・」
ルーカ 「嘘だよ。まー何とかなるでしょ」
ウイルド 「・・よくこんな時にのんびりしていられるな。御子どころか王子であるオレまで捕まって・・。これでユートラフィアは負ける」
ルーカ 「・・・前にさ。聞きそびれたよね」
ウイルド 「ん?」
ルーカ 「どうしてユートラフィアとタスティーナは戦争してるの?」
ウイルド 「・・・・」
ルーカ 「馬鹿にしないでちゃんと答えて」
ウイルド 「・・お互いがお互いを統合しようとしているんだ」
ルーカ 「統合?」
ウイルド 「二つの別の種類の果物があるとするだろ。二つともそのまま別々に食べても十分甘くて美味しい。けど、二つを合わせて調理したらもっと美味しくなることがある」
ルーカ 「まーね」
ウイルド 「同じだよ。良い王に治められた国があるとするだろう。けど隣の国にはより良く治める王がいる。だったらより良く治められる王がその二国を治めればいい。国は大きければ大きいほど、その国力を強め、維持することができる。物は結構他国から仕入れるものが多い。国を渡って品物を仕入れる時には国境を越える税がかかるが、自国で作れるようになるとその税が一切かからなくなる。つまり互いの国で取れ、今まで高かった物は安くなり、流通が潤って、必要な物が手に入りやすくなる。何より、国の治安を安定させれば、巨大な国ということで他国からの侵略の可能性が低くなり、安全を手に入れられるようになる」
ルーカ 「まーそうなるね」
ウイルド 「王はタスティーナに統合を呼びかけたんだ。二つの国はとても大きく安定している。けれど更なる安定した、平和な国を作るために」
ルーカ 「それは勿論・・・」
ウイルド 「タスティーナがユートラフィアに吸収され、ユートラフィア王が治める形になる」
ルーカ 「それは嫌がるでしょ」
ウイルド 「オレが言うのもなんだけど、ユートラフィアにはタスティーナを統合しても十分治めるだけの力がある。王にはその器がある」
ルーカ 「・・あの王がねぇ・・・でも随分傲慢なお言葉ねぇ」
ウイルド 「お前は前線から離れた場所に住んでいるから、戦争なんて知ら ないって言ってたよな。普通、戦争をしている国で例え前線から離れていたとしても、何も戦争の影響を受けないで普通に暮らせることなんてあると思うか?」
ルーカ 「・・それは」
ウイルド 「食料にしろ、物資にしろ、人手にしろ、物理的なものだけでない、精神的に安定しているはずが無いんだ」
ルーカ 「・・そうだね。そー言えば凄いのかもしんない」
ウイルド 「確かにタスティーナにも今まで治めてきた王はいる。何度かお会いしたことがあるがとても素晴らしい御方だ。しかし、国に王は二人も要らない」
ルーカ 「だから、ユートラフィアが治めるの?」
ウイルド 「タスティーナの王が新しく生まれる大国を治めるだけの器があれば、タスティーナの王が治めればいいさ。けれどタスティーナはここ数年、何の発展も見られない。停滞した安定も時にはいいかもしれないが、時代は常に変わり続ける。それに取り残されるようでは国を傾けてしまう。そんな印象を受けたから、余計に呼びかけてみようと思ったのさ」
ルーカ 「・・ほー」
ウイルド 「勿論国にはそれまでの、歴史や習慣、文化がある。他国に吸収されたら普通は吸収されたその国に合わせなければならなくなる」
ルーカ 「嫌だなぁ」
ウイルド 「オレもそう思う。王も同じだ。だからタスティーナには、そういったものを一切変えさせようとは思わない。互いの安全と安定を図るために、一つにならないかと呼びかけたんだ」
ルーカ 「武力で?」
ウイルド 「違う!最初に仕掛けてきたのは向こうだ!大国になり安定を図ろうとすることで、こちらが弱みを見せたと思って侵略を始めたんだ!本当に浅はかな考えだ。そして今も戦いは続けられている」
ルーカ 「ふーん」
ウイルド 「『ふーん』って・・それだけか!オレたちがどんな思いで戦っているか理解したわけじゃないのか!?」
ルーカ 「まあ。相手には相手の、自分には自分の理由があるってね。やっぱ公平にこっちの人間にも聞いてみなきゃ・・・そろそろかな?」
ウイルド 「何を言って・・そんな無理(なことを)・・」
タス兵1 「(ウイルドの言葉遮り)ルーカ・ナイエ様。王がお呼びです」
ルーカ 「ほらね」