天空の羽 地上の祈りとともに6

(SE・料理をする音 鍋で野菜を炒める音、野菜を切る音、水の音、女のガヤ等。ルーカ調理している女たちのもとへ訪れる)
ルーカ   「こーんにちはー・・」
フィ女1  「見ない顔だね。何処の者だい?」
ルーカ   「え?あ、今日、ウイルド様にお仕えして一緒に参りました、ルーカと言います」
フィ女2  「ほら、ウイルド様お付の侍女って言う・・」
フィ女1  「ああ。その子がどうしてこんなところにいるんだい?ウイルド様の傍にいなくていいのかい?」
ルーカ   「いいんです。いいんです。自分の側ばかりいないで調理場行って手伝ってこいって言われたんです」
フィ女2  「はー。流石ウイルド様。私たちまでお気遣いくださるなんて。御自身も王の突然のお呼び出しから舞い戻られたばかりで疲れていらっしゃるはずなのに」
フィ女1  「それじゃあ、ルーカ。その野菜を切っておくれ」
ルーカ   「いえっさー」
(SE・水の流れる音 洗い物、野菜を切る音等)
ルーカ   「・・・野営場ってもっと男の人だけで暑苦しいのかなーと思ってたんだけど、随分女の人が多いんですね。小さな子どもまでいて」
フィ女2  「まあ、料理や洗濯はどうしても女性の方が得意だし、男の人には力一杯戦ってほしいから」
ルーカ   「・・そこまでしてどうして戦うの?」
フィ女2  「元々ね。私たちの町がここにあったの。もう何十年も前に。今はもうその頃の物は何も残ってはいないけど。それでもこの土地が好きだから。いつか戦争に勝って、ここに街が再建できる日を待っているの。勿論離れてった人たちもいるわ。でも大半の人が残ってる。親から子に受け継ぎながら。・・・もう随分少なくなってしまったけど。」
ルーカ   「他の場所でやっててくれれば・・・っ今のなし!それじゃあ何も変わらないよね!ごめん!」
フィ女2  「確かにそう思うこともあった。知り合って、仲良くなる人がどんどんいなくなって、代りに知らない人が又増えて、それの繰り返し。・・まるで使い捨ての道具のよう。・・・・どうして戦争なんてやってるんだろうね」
ルーカ   「本当にごめんなさい。一つ聞いてもいいですか?私すっごくここから離れた所に故郷があって、のほほんと暮してて、同じ国に生まれながら他人事みたいに感じてきていて、戦争している理由を知らないんだよね・・・」
フィ女2  「そんなものだよね・・。身近に起きなきゃ関係無い」
ルーカ   「本当に本当にごめんなさい」
フィ女2  「・・実はね。私も知らないの。国の偉い人しか知らないんじゃないかな。ウイルド様とか。お仕えしているあなたには失礼だと思うけど、私はあの人好きじゃない。仮にも王子様が戦場で一緒に戦ってくれるのは嬉しいと思うけど、私たちに命令するだけ命令して、その理由を教えてくれること一切無いんだもん。崇高なお考えがあるんだろうけど。今さら興味が沸く訳でもないんだけど。昔の人は理由を知っていて、その為に命をかけて戦っていたのかもしれないけど、今の私たちフィージアの人間はここを再建するために戦ってる。ただそれだけ。生まれた時から戦争をしていたから、親にはそれしか教えられなかった。それしか考えたこと無かったのよね」
(SE・洗物をする音FO)

(SE・ガヤ ウイルドが戦場に戻ってきたことを喜び、宴会を開いている)
ティアト  「どーしたぁ?ねーちゃん飲んでるかぁ?」
ルーカ   「あ、さっき会った人。は、は~~~~い」
ティアト  「俺はティアトって言うんだ。よろしくな。ま、ほれ、一杯」
(SE・コップに飲み物をそそぐ音 ティアトに酒をつがれるルーカ)
ルーカ   「いっただきまーす。(酒を飲む)んぐんぐ・・ぷはぁ~あーうめぇ」
ティアト  「おーやるねぇー。しかもオヤジくさいときたもんだ」
ルーカ   「父親が大酒飲みだからね。付き合わされて飲まされるのよ。だから癖が移っちゃったの」
ティアト  「はー。そりゃーいーおっとっつあんだー」
ルーカ   「まーまーおとっつあんもどうぞ」
(SE・コップに飲み物をそそぐ音 ティアトのコップにルーカが酒をそそぐ)
ルーカ   「ねーねー一つ聞いてもいい?おっとつあんはどーして戦争に参加することにしたの?」
ティアト  「あ?(酒を飲みながら)俺は馬鹿だからな。力しか取り得が無いのよ。だからこーやって戦争のある国に行っては雇われ兵になって稼いでるって訳よ」
ルーカ   「ふーん。この国出身じゃないんだ」
ティアト  「ああ。南のあつーい国の生まれだよ」
ルーカ   「どうしてユートラフィアにつこうと思ったの?」
ティアト  「秘密だぞ。特に王子様には絶対。報酬がいいからだよ。ま、言っちまえば、俺は自分の仕事さえこなして、金さえもらえれば、どっちが勝ったて負けたって言い訳だな」
フィ女3  「あんまり人の素性を詮索するもんじゃないよ。皆それぞれの理由があって戦ってる」
ルーカ   「皆同じ理由じゃないの?」
フィ女3  「私は自分の家族をタスティーナの人間に殺された。だから兵士に志願した。復讐のために。国の目的など知らない。ただの大義名分にしかすぎない。どうでもいいことだ」
フィ男1  「私はこの国でずっと暮らしてきました。平和な暮らしを与えていただいた。その恩を王に少しでもお返しできるならと思い、今ここにいます」
ルーカ   「・・何か変だよ。平和が好きなのにどうして戦うの?平和ならそのままでいいじゃない。タスティーナの人間に家族を殺されたからって、殺したのはその人本人でしょ。他の人じゃないじゃない。それじゃああなただって同じ事してるじゃない。無差別に人を殺してるんだよ。ねぇティアト、お金のために命かけられるの?国として戦う理由って何?大義名分?じゃあ何のために戦ってるの?何かおかしいよ?意味無いじゃない」
フィ女3  「今さら生き方を変えることはできない」
ルーカ   「―――――何かそれって言い訳じゃない。本当のことから目を反らして、逃げてるだけじゃない」
ティアト  「じょうちゃん。人は皆自分だけの正義を持っている。例えそれがあんたから見て間違っていることだとしてもな・・・自分で気がついているとしてもな」
フィ男1  「あなたはとても賢い。沢山の意見を持っている。素晴らしい答えを持っている。しかし心が入っていない。理解しているつもりで本当は何も理解していない」
ルーカ   「・・・だって人の命より大切なものってあるの?」
フィ男1  「いつかあなたにも分かりますよ」
ルーカ   「・・・分かんないよ・・・」
(SE・ガヤ ウイルドがルーカの前に現れ、周りにいた者たちが驚き、ひそひそ話し合う)
ウイルド  「(息を切らして)ここにいたのか、ルーカ。勝手にうろつくなってあれほど言っただろう!」
ルーカ   「うるさい」
ウイルド  「は?何言ってるんだ?」
ルーカ   「うるさい!うるさい!」
ウイルド  「人が懸命に探してやっと見つけたっていうのに、何だ・・」
ルーカ   「(ウイルドの言葉を遮って)うるさい!うるさい!うるさーい!」
フィ男1  「ウイルド様に向かって何て口のきき方を!」
ウイルド  「いい。構わない」
(SE・足音FO ルーカその場から去る)
ウイルド  「あ!待て!ルーカ!」
(SE・足音FO ウイルド慌ててルーカの後を追う)

(SE・足音FI ウイルド、ルーカに追いつく)
ウイルド  「どうしたんだ?あれほど一人で行動するなと言っただろ」
ルーカ   「・・何でもない」
ウイルド  「だったらどうしてこっちを見ない」
ルーカ   「見たくないから」
ウイルド  「どうして」
ルーカ   「腹が立つから」
ウイルド  「何でだよ」
ルーカ   「っとにかくほっといて!私今色んなことにむしょーに腹が立って仕方ないのっ!」
ウイルド  「何なんだよ!勝手に苛立って!勝手に八つ当たりしてんじゃねーよ!」
ルーカ   「とにかく今構わないでよ!」
ウイルド  「嫌だね!理由を言えよ!理由を!」
ルーカ   「くぁ~~~~~どーして分かってくんないのよ!」
ウイルド  「分かるか!」
(SE・打撃音 ルーカ、ウイルド背後から現れた影に抵抗する間もなく殴られ、気絶させられる)
ルーカ   「っ!」
ウイルド  「なっ!」
(SE・倒れる音)