天空の羽 地上の祈りとともに5

(SE・馬車音 ルーカたちを乗せ、馬車が前線に向かい走っていたが、ゆっくりと止まる)
ルーカ   「うっひゃー。何処を見ても土。山さえ禿げて、草一本生えてない。・・・何、この風。鉄臭い」
ウイルド  「それは血の臭いだ。気をつけろよ。これからは絶対オレの傍を離れるな。自覚が無くとも、お前は神に護られし御子様なんだからな。オレたちを平和に導いてくれる大事な御方なんだから。お前にもし何かあったら、兵たちは一気に士気を失う。敵国にとっては十分が利用できる対象だ。何処で狙っているか分からない」
ルーカ   「はいはいはい。耳にタコができる位聞きました。私なんかでねぇ・・」
ユート兵2 「ルーカ・ナイエ様。あちらが我々の本陣。野営場です。これからは城に比べ、不便な点が多くなってしまうでしょうが、ご了承ください」
ルーカ   「気にしないでください!私なんか何処でも寝れますから!」
ウイルド  「この男は違うが、野営している兵士の殆どは志願兵だ。元は農民だったり、商人だったり、普通に暮らしていた人たちだ。オレたち城の人間が司令塔となって戦い続けている」
ルーカ   「・・タスティーナの本陣は?」
ウイルド  「あの山の麓だ。影に入ってこちらからは見えないようになっている」
ルーカ   「・・・なんかさ。風が冷たいね」

(SE・ガヤ ルーカたちが野営場に入る。彼女らを注目して兵たちがざわめく)
ティアト  「よう、お帰りくださいました。ウイルド様」
ウイルド  「ただいま。留守中何も無かったか?」
ティアト  「はい。勿論ですとも。ウイルド様がお帰りくださるまで、ここをお預かりしていましたからね」
シスタ   「ウイルド様。お帰りなさいませ。そちらの方が例の・・」
ウイルド  「ああ。案内してやってくれ」
シスタ   「はい。ではこちらへ」
ルーカ   「あ、はい」
(SE・足音 ルーカ、シスタに連れられて、ウイルドから離れる)
ティアト  「何ですか?あの子は?」
ウイルド  「ただのオレの侍女さ」
ティアト  「へー。ウイルド様が珍しい。今まで一切侍女なんて付けたことないのに。護衛でさえ嫌ってたじゃありませんか」
ウイルド  「王がどうしてもと言ってな。命令なら仕方無い」
ティアト  「はー」

(SE・足音[2人] シスタに連れられて、ルーカ、歩いている)
ルーカ   「・・・私のこと知らせないんですね。大々的に」
シスタ   「必要ありませんから。ルーカ様は王の元でこの戦に勝利するよう祈りを捧げていらっしゃると皆信じています。貴女様がここにいらっしゃることは城の人間を含め一部の者しか知りません。こんな前線で公表したら闇雲に戦いを招き入れるだけですし、貴女様の警護で戦に十分な力を投じることができなくなってしまいます。心許無いかもしれませんがご容赦ください。私たち貴女様を知る城の兵士たちが全力でお守り致しますので」
ルーカ   「はー。あのオヤジのことだから、兵の士気が上がれば私のことなんかどうでもいいのかと思ってた」
シスタ   「・・オヤジ?まさか王のことですか?そんなことありません。王は貴女様のことをとても大切に思われています。期待していらっしゃいます」
ルーカ   「・・・・勝手な思い込みにしかすぎないのに・・」
(SE・足音CO ルーカ足を止め、一つのテントの前に立つ)
シスタ   「こちらのテントでお休みください。申し送れました。私はシスタと申します。もし必要なものがございましたら私に言ってくだされば、できる限りのものをご用意いたしますので」
(SE・布の擦れる音 テントの中を覗くルーカ)
ルーカ   「げっ・・・野営場ってもっと貧相なのかと思ってたんだけど・・ちゃんと簡易とはいえベッドまで用意されてる。タンスにテーブル、本にランプ・・他の皆もこんな感じなの?」
シスタ   「他の者までお気になさらずに。お隣がウイルド様の寝床となっておりますので・・ああっ!何をなさってるんですか!?」
ルーカ   「教えてくんないから他の人のテント覗いてんの。・・やっぱ全然違うじゃん。皆地面で寝て、もしかしてかける物さえ無い人がいるんじゃないの?」
シスタ   「・・勿論そのような者も中にはいます。けれどもルーカ様がお気になされることではありません」
ルーカ   「うーん。お願いがあるんですけど」
シスタ   「何でしょう?」
ルーカ   「敬語使うの止めてくれませんか?特別扱いするのも。何かお忍びでここに来てるみたいだけど、こんなに丁重に扱われたら、私が御子だってばればれじゃないですか」
シスタ   「しかしっ!御子様にそんな!」
ルーカ   「その御子様に危険が増えてもいいんですか?」
シスタ   「・・・分かりました」
ルーカ   「すみませんが、他の私のこと知ってる人たちにも同じ事伝えてもらえますか?あ、それとも自分で行こっかな・・」
シスタ   「(ルーカの言葉を遮る)私がお知らせしておきますので何もなさらないでください!」
ルーカ   「ありがとうございます」
シスタ   「え・・あ・・はい。それではルーカ様はここにいて休んでください。何時間も馬車に揺られ、お疲れになったでしょうから。この辺りは城の兵しかおりませんので、何かありましたら何なりとお申し付けください。では、失礼します」
(SE・足音FO シスタ早足で去る)
ルーカ   「悪いことしたかな。彼女には彼女のお役目があったんだし。でも本来なら私よりずっと偉い人に敬語使われるのも、こんな場所で休むのも、あまりにも落ち着かないからなぁ。 さーて。私はここで何をするんだろう?話によると私はあの城の嫌味オヤジの所で祈ってるって噂を流してるらしいけど・・・やっぱ祈るんだろうか・・・」