蜘蛛*

――私は全てを知っていて、彼女に告げました。

「…神谷さんがどうしようも無く愛しいんです…」
神谷さんが武士として望んでここにいる事を私は知っています。
女子であるが故、誰よりも努力してきた事も。
それでも、私は私の想いを抑えきる事はできませんでした。
だから告げたのです。
「いいんです。貴方は何も答えなくて。貴方がこの新選組にずっといたいと、武士としてずっとここにいたいと望んでいるのは分かっていますから」
「……」
神谷さんは呆然として私を見つめています。
「いいんです。ただ…私の気持ちを貴方に伝えられたら…それだけで…良かった…」
勝手ですが、私は彼女に自分の想いを告げられただけですっきりしました。
この子が何と答えてくれても、もう後悔はない。
一方で私の中ではある打算がありました。
「…あの…じゃあ…今まで通りで…何も私は変わらないで接しますから、貴方も変わらないで下さい」
そう告げると、神谷さんは泣きそうな顔をします。
「…何もそんな顔しないで下さいよ…貴方にとっては迷惑な感情だったっていうのは分かってますから…」
私は神谷さんの涙を拭おうとして…そして今の私が本当に触れてもいいのか戸惑いました。
想いを告げても尚彼女に触れても良いという許可を彼女に得るまでは触れてはいけない気がしました。
けれど。
彼女はすぐに諾と言う。
その確信がありました。
予測通り、神谷さんは私の手を自ら引き寄せました。
「っ!」
「…先生はズルイ…本当にズルイです……」
くしゃりと歪んだ笑顔の神谷さんの頬から静かに涙がぽたりぽたりと零れ落ちました。
ずっと気付いていました。
ずっと知っていて気付かないふりをしました。
だって。
一度手に入れたら、二度ともう手放せない事を知っていたから。
だから私は全てを知っていて。
彼女にわざと選ばせました。

可愛らしいそっと触れるだけの口付け。
彼女から私の元に堕ちてくれました―――。

「…っはぁっ…!」
「…神谷さん……」
同じ量の稽古をこなしている筈なのに、いつまでも白くて細い神谷さんの背に私は口付けを落す。
一つ二つと時折紅く痕を残す。白い柔肌に映える紅は私の独占欲を満たした。
私のものだという証を。
毎回、見えるから嫌だと拒む神谷さんを宥めながら。
首筋に、胸元に、腹に、内股に。
嫌がりながらも私が痕を付けていく度に、ただ愛撫するよりも蜜がずっと多く溢れ出すのをこの子は気付いているのでしょうか?
「ねぇ…もっと声を聞かせてくださいよ…」
初めて抱いた頃は痛がっていた少女も今ではすぐに蕩け出す。
「あぁんっ…!」
声を出すのも恥らっていた神谷さんは、体を重ね、善がる度に惜しみ無く声を漏らすようになった。
啼き声は私の中の雄を急激に呼び起こす。
けれど急く事はしない。
誰よりも大切な少女を。
優しく触れる。
私の欲望を吐き出す為だけの器では無いのだ。
この人も感じてくれなくては。
私の満たされる分だけ、この子も満たされてくれなければ。
何より。
「せんせっ!もうっ!ふぁぁんっ!」
腰を揺らし、恍惚とした顔を甘い蜜を零す少女は、私を虜にして離さない。
そっと細い足を持ち上げ、蜜の舐め取る。
この甘い蜜を全て飲み干せるのは私だけだ。
私が神谷さんを女として花開かせ。
そして、私だけの彩に染め上げる。
私自身を埋め込むと、すっかり私を知った神谷さんの体が歓喜に震えだす。
どれだけ私を求めているのか。
どれだけ私を想っているのか。
こんなにも彼女の体中から溢れ出す。
それだけで愛しさが増す。神谷さんの虜になる。
私だけしか知らない体。
私だけを求める体。
そうして私が己の内の熱を吐き出した時の少女の表情は。
「おきたせんせっ!!やぁっ…もぅっ!!ふっ…あああっ!!」
私の欲望を刺激する。
だからつい夢中になって貪りつき。
彼女がぐったりと気を失った頃に、我を取り戻す。
それも全て神谷さんが私を夢中にさせるから悪いのだ。

神谷さんを女として花開かせたのは私だ。
それによって弊害が出てきたのを最近感じ始めていた。それと同時にもう一つの可能性も生まれていた事も。
そしてついに土方さんからも指摘されてしまった。
あの人はきっととっくのとうに気付いていたのだろうけど、言わずにいてくれたのだろう。
何だかんだ言いながら神谷さんを気に入っているから。
その当の神谷さんは隊士部屋にはおらず、聞くと、相田さんと山口さんに連れられ席を外していたとの事だった。
二人を信頼をしてはいない訳ではないですが、今のあの子は少しでも目を離すとどんな目に合わされるか分からないほどの色香を身に秘めている。
しかも性質の悪い事に、本人は少しもその事に気付いていないのだ。
以前よりずっと柔らかくなった仕草、表情。何より少女の時のまだ硬さの残る体つきから、ふっくらと女性らしい丸みを帯び始めていた。
私のせい。
と思うと口の端が上がってしまうが。
私以外の誰かが愛でる。
それ程腹立たしいものもない。
「沖田先生っ!」
そんな事を思いながら神谷さんの帰りを待っていると、彼女はすぐに私の姿に気が付いて駆けてきてくれました。
私を見つけた時のその表情――。
すぐさま周囲の人間もこちらを見ている事に気付いて、私は彼女を小脇に抱えると足早に部屋を出ました。
屯所敷地内の倉の近くで彼女を下ろすと不思議そうに私を見る彼女に何度も口付けを繰り返しました。
「…何をしただろうかって顔ですね」
絡めた舌を伝って零れた雫を私は無造作に拭う。
「相田さんと山口さんと何処に行ってたんですか…?」
そう問えば。
「…沖田先生…悋気ですか…?」
少しの驚きと、喜びを表情に乗せ、そう問う神谷さんに、苛立ちを感じ、私はもう一度彼女の唇を吸いました。
彼女は少しも自分の魅力に気付いていない。
どれだけ自分自身が全ての男が内包する獣を擽るのか気付いていない。
私は知らしめてやろうと神谷さんの乳を弄り、無造作に握り締めました。
貴方はこんなにも女なのだと。
「っいたっ!」
「あ…ごめんなさい……」
神谷さんの悲鳴染みた声を聞いて、そう言えば最近彼女が胸に触れると痛みを感じるのだと言っていた事を思い出しました。
女と知らしめるのと、彼女を傷つける事は違います。
そう冷静さを取り戻すと、神谷さんは真剣な眼差しで、接吻の余韻を残した赤い唇を開きました。
「いえ…。それよりも、先生!」
話を聞いて安心しました。早合点しなくて良かった。
一番隊の皆さんはやはり良い人ばかりです。
「…私…そんなつもり無かったのに…どうしたらいいんでしょうっ!」
そう呟く神谷さんは蒼くなって俯きました。その姿を私は何処か遠目で見ていました。
いつかこんな日が来る事は分かっていました。
そう望んで私は彼女を抱いたのですから。
彼女は気付いているでしょうか。気付かせないようにしていたからきっと気付いていないでしょう。
込み上げる笑みを私は必死で抑えます。
そしてきっと彼女は今、ある決断をしようとするでしょう。
けれど、それさえも。
もう、遅い。
「やっぱりもう、先生と体を重ねるのはっ…!」
私は神谷さんの言葉を遮るように、彼女を抱き締めました。
「…私も気付いていました…神谷さんがどんどん女性として魅力的になっていくのを…それでも私は…もう貴方の温もり無しでは生きていけないんです…」
「でもっ…!」
「…貴方の誠の邪魔になるだろう事を分かっていても…私は貴方が欲しかった…自分勝手ですよね…けれど…あの日貴方が想いを返してくれた時…どれだけ幸せだったか…」
先程までの激しいものではなく。
万感の想いを込めて、優しく口付けを贈る。
「私を選んでください」
「……」
「…誠ではなく…私を…」
それは私の真の願い。
そして。
神谷さんは選ぶ。
「…沖田先生はズルイ…私はいつだって……先生が全てなのにっ!」
涙を零す彼女は、それでも嬉しそうに笑みを浮かべていた。
だって。
彼女は私の事を愛していますから。
文字通り身も心も私のものになるよう、毎日愛し続けましたから。
今度は自然と零れる笑みを抑えず、もう一度優しく彼女に接吻を贈った。
さっきは痛がらせてしまいましたので今度は優しく神谷さんの胸をなぞりました。
柔らかい温もりに触れながら、もっと神谷さんを蕩けさせたくて、私は彼女の袴の隙間から蜜のありかに触れます。
「っ!あんっ…っふっ…って…あ…せんせっ……やっ…ここっ!」
もう溶けたと思っていたのに、まだ残っていた思考で、神谷さんはここが屯所だという事を思い出したようですが、遅いです。
「…大丈夫ですよ…誰も来ませんから……」
「!」
分かっていて、私は貴方をここで抱こうとしているのですから。
「ダメですってば!誰か来ちゃうっ!」
愛撫の最中に無粋です。
未だ抗議しようとする神谷さんの思考を完全に私に向ける為、私は既に蜜壷に差し込んでいた指を、彼女が善がる一点に向けて激しく追い立てました。
「ばれっああんっ!やぁっ!はぁんっ!」
「ねぇ…神谷さん…気付いてます…?」
私は彼女の望みに応じる事無く、私自身を彼女の内に突き立てました。
「…っん~っ!何がっ…ですかぁっ!はぁっ!はぁんんんんっ!!」
だって。
「いつもより感じてる事…」
私を包む神谷さんの熱がまた上がりました。
「また体温が上がった…」
羞恥心を煽る度に、彼女の蜜はまた溢れ出し、とろとろと私に絡みつく。
何だかんだ言いながら、この人も感じているのだ。
二人でこんなに気持ちいいんだもの。
止められる筈ない。
私は一度、己の熱を吐き出すと、すぐに体制を変えてまた神谷さんの蜜と私の熱がぐちゃぐちゃに溶け合うように掻き混ぜました。
時々蜜壷に収まりきらなかった蜜がこぽりと足の間を伝うのに、また私の中の雄が疼き、神谷さんを激しく突き立てました。
幾ら声を抑えようとしても無駄ですよ。
聞かせてやるのは癪ですが、皆に神谷さんが私のものだって知らしめる絶好の機会ですから。
逃げようとしても無駄ですよ。
私はもう貴方の何処に触れれば艶やかに啼くのか全て熟知しているんですから。

一頻り互いの熱を吐き出して、落ち着いた頃、神谷さんはぺたりと座り込んでしまいました。
すっかり力の入らなくなった神谷さんにゆっくりと着物を着せてやります。
すると、突然びくりと神谷さんは体を震わせ背筋を伸ばしました。ふと、足元を見ると、熱の名残が彼女の内腿を伝い地面に零れていました。
少し激しくし過ぎたでしょうか。
でも神谷さんだっていけないんです。私をあんなに煽るから。
彼女を見ると恥ずかしそうに目を伏せて、涙を零しています。
それを拭ってやると、私は微笑みました。
「神谷さん…私と体を重ねてから、どのくらい経ちました?」
「え…?」
「ゆっくりでいいから数えてみて?」
彼女が考えて手を止めている間も、私は内股を零れる名残を使い物にならなくなった下帯で綺麗に拭い取ってやり、素肌のまま袴を穿かせてやります。
声は聞こえても仕方がないですが、それ以上は絶対誰にも見せてやりません。
「……三月くらい…?」
少し嬉しそうに頬を染めながら、けれどそれが何に繋がるのだろうと不思議そうに神谷さんは私を見ます。
この子は。
医学の知識がありながら、こういう事には本当に疎いんですから。
時折見せるこうした幼さが可愛らしくて、私はまた笑ってしまいます。
そんな私にむっとする神谷さんの腹部に、私は優しく触れました。
「…まだ気付きません?」
「?」
「…神谷さん…最後にお里さんの所に行ったのはいつですか…?」
「―――っ!?」
やっと気付いた。

「もう、時期だったんですよ」
ずっと決めていたんです。
貴方を手に入れると決めた時に。
こんな私がよいと貴方が選んだんですよ。
ねぇ、神谷さん。

2012.05.05