告白13

総司はいつだって他の隊士たちと同様に扱ってくれる。
セイを対等な武士として見てくれる。
それは告白される前も、されてからも変わらない。
総司がいつから自分に対してそういった感情を抱いてくれていたのか分からないが、それでもいつの間にか変わった彼の自分に対する感情をセイは少しも見抜けなかった。
それは彼がずっと変わらず扱ってくれたから。
「一番隊行きますよ!」
総司がそう声をかけると、巡察の為に集合した隊士たちは一斉に「応!」と声を上げる。
セイは総司のすぐ後ろを歩く。
いつもと同じ場所で。
彼とセイの距離は、いつもと同じ距離。
告白される前も、された後も同じ。
本当に自分は女子として彼に求められたのだろうか。
何度も疑ってしまうくらい。
「沖田先生。あそこに人影が…」
総司に近付き耳元で囁く隊士に小さく頷くと、彼は素早く対象に目を向け、ゆっくりと近付いてゆく。
「そこの方…」
総司が声をかけると、振り返った男はその勢いのまま抜刀し、彼に一閃浴びせようとした。
「沖田先生!」
すかさず彼と男の間に入り、大刀よりも抜き易かった脇差を抜くと、セイは男の刀を受け止める。
ギリ。
鈍い音がする。
元来彼女が持つ素早さで最初の一撃を食い止める事が出来たが、だからと言って互いの刀の鍔を交差させ刃を抑えているが、それをいつまでも留めるほどの又押し返す程の力はセイにはない。
「この野郎!」
相田がセイを力任せに斬ろうとする男に駆け寄ると、その目の前に別の方向から現れた刀が振り下ろされる。
横からの殺気に気付いた彼は咄嗟に身を引き、事なきを得たが、すぐに刀を振り下ろした男を彼が睨みつけると同時に、男は相田に向かって襲い掛かってきた。
それを皮切に更に五、六人の男たちが隊の後方から回り込むように現れ、抜刀すると、襲い掛かってくる。
「こいつらこの間捕らえた奴らの仲間じゃないですか?」
山口がかける言葉に総司は頷く。
「どちらにせよ全員捕らえれば良いだけの話です」
そう言って総司も素早く抜刀すると、大刀を抜けぬまま脇差で男と未だ打ち合うセイの加勢に入る。
「神谷さん!早く脇差を納めて、大刀を抜きなさい!」
「はいっ!」
総司が割り込む事でセイは一度後ろに下がり、脇差を納めると、手抜き緒を手首にかけて大刀を抜刀した。
そして体制を整え再度斬り込もうとする、彼女の心の中に隙間が出来る。
こんな時なのに思考がつい総司の確認してしまう。
彼は自分を女子扱いして判断していないか。
守るべき者として、後方に下げられていないか。
自分でもそんな風に考えてしまうのが嫌になるが、つい気になってしまう。
けれど総司からはそんな素振りは微塵も見えない。
確認する度に安堵をし、そして微かな落胆が胸を過ぎる。
どちらを自分は一瞬望んでいたのか、そう考えると不快さに胸が澱が溜まる。
そんな思考する余裕は自分には無いはずなのに、ついいつもそうした想いが一瞬彼女の中を巡り、その度にセイは自分自身に吐き気がした。
武士であるべき自分はそんな修羅場の只中でそんな思考をしている事は士道不覚悟の何物でもない。
そんな彼女の葛藤を総司が知るはずもなく、セイが体制を整えたの気配を感じ。
「神谷さん。背中任せますよ」
珍しく彼にしては手こずる相手なのか視線だけセイに向け、にこりと微笑むと、目の前の男とより一層激しく刀を打ち交わし、攻防を始めた。
その間にも総司の背を取ろうとする男が現れ、セイはすかさず一閃する。
「はい!」
総司の声に少し間を置いてしまったが、それでもセイは力強く返答する。
心が打ち震えた。
沖田先生が私に背を任せてくれる。
それを言葉にして伝えられた。
今までも幾度もそんな場面があったけれど。
総司の隣でいつも歩くセイは何か起こる度に自然と彼の背を守る事になる。
彼は何も言わないけれど、総司もセイも互いに互いがどう動くのか察し、それが自然と互いの背を守る行動になるのが自然になっている。
だからそれについて互いに何かを語った事は無い。
それでも、だからこそ、今改めて言われると、これ程セイの心を振るわせる言葉は無かった。
(沖田先生は武士として私を必要としてくれている)
そして同時に今の自分が恥ずかしくなった。
総司に武士として、これ以上無い信頼を受けているのに、女子として告白されたからといって、自分は彼の武士としてのそして恐らくはセイ自身に対する信頼全てを否定してしまっている。
今、この修羅場でも、尚だ。
あれだけの酷い事を言ったのに、彼はいつもと変わらなく接してくれるからと安心して。
心にも無いことを言っておいて、自分の選択は正しいのだと思っていた。
総司を侮辱する傲慢な考えだ。
恥ずかしくなった。
そしてこれ以上無いくらい。
心が高鳴った。

やっぱり。
沖田先生が好きだ。