告白12

富永セイとして傍にいるよりも。
神谷清三郎として傍にいる。
誰よりも大切な人の誠を守る為に。
ずっと前から誓っていたその願いをこれからも貫くだけだ。
セイは改めて自分は貪欲だと思った。
今回の事で改めて気付かされた。
誰よりも大切な総司に女子としての自分を求められたとしても、セイは女子としてだけで彼の傍にいる事は出来ない。
いざという時、彼を守れなければ、己自身が楯になれなければ意味が無いからだ。
では、武士としてだけの己を求められたら。
今までと変わらず、セイの中の女子の部分が、彼に女子としても傍に置いて欲しいと願うだろう。
結局、どちらを選んでも、セイは己の身の内にある不満を全て解消する事は出来ないだろう。
けれどそれは全てセイの中で渦巻く身勝手で我侭な想いだ。
総司にそれを求める事はできない。
あの日、総司の想いを、告白を、女子として断った事で、きっと彼を傷付けただろう。
あの時は己を女子としてしか見てくれないという不満が一気に彼女の心を占め、彼の想いを咄嗟に拒否してしまった部分が多い。
それでも彼はその後も一番隊からセイを外すこともしないまま、傍に置いてくれる。
平然を装っていても距離をうまく取れずにいたセイに今までと同じように接してくれる。
声をかければ答えてくれるし。
いつも通り隣で眠る。
自意識過剰だろうと思いながらも、鎖を付けて眠るようになっても、そんな警戒など初めから必要無いくらい、彼はいつもと変わらない。
己が意識し過ぎて恥ずかしくなってしまったくらいだ。
それでも。
もしあのまま女子として、彼の想いを受け入れてしまっていたら、――今も武士として新選組にいられたか分からない。
一番隊として、常に傍にいて、彼を守るという事ができなくなってしまっていたかも知れない。
だったらあの時の選択は、彼への返答は間違いではなかったのだ。
そう。セイに確信させた。

「ヤッ!」
素早く頭上に振り下ろされる刀を、総司は軽く肩を後ろに引く事でかわす。しかし、すぐさま、彼に向けられる切っ先が方向を変え、彼を襲った。
それを、己が構える竹刀で弾くと、すかさず対峙するセイの頭上に振り下ろした。
セイはそれを見越したように、総司の振り下ろした竹刀と己の竹刀が十字で交差するように受けながら、身を引き、刀身に乗ってくる彼の力もそのまま受け流す。
そこで一旦互いに身を引くと、一歩下がって距離を取り、再び己の間合いを計るように、じりじりと竹刀を構えながら、摺り足で左右にと動き始めた。
そんな緊張感漂う中で、セイは無意識の内に頬が緩み、笑顔になり始めていた。
視線を交わす総司も口元を引き締めながらも、その瞳は何処か嬉しそうに優しく揺らめいている。
彼と刀を交わす度に。
こうして互いの間合いを作る駆け引きをしていると。
不思議とセイの中にずっとあった総司に対するどろどろとした感情が澄んでくるのを感じた。
それと同時に彼女の中に疑問が浮かぶ。
『私は本当に沖田先生に告白されたのか』と。
されたのだから今のような状況になったのだけれど。
『先生は女子としてだけで私を望んでくれたのではなかったとしたら?』と。
目の前の総司はいつもの総司だ。
力量差がある為に元々指導としての刀を交わしてくれているが、そこに一切の甘やかしはない。
他の隊士たちと同様。今まで通り、刀一つで戦場を生き抜くための剣術を交わしている。
そして。
「ヤヤッ!」
どぉんっ!
防具をつけていたセイの鳩尾に向かって総司は一撃を放つ。
その胴に打ち付けられる竹刀の切っ先に押されたセイは突き飛ばされ、尻を床に強かに打ち付ける。
鳩尾を突かれた衝撃は多少防具で軽減されているものの体幹まで響き、セイはその場で蹲ってしまった。
「相手に揺さぶりをかけようと動いて見せるのは貴方の得意とする所ですが、斎藤さんの指導を受けて大分無駄な動きが減りましたけど、それでもまだ無駄な動き多いですよ。それでは逆に自分の体力を擦り減らして相手に隙が出来るまで待ってくださいと言っている様なものです」
蹲るセイを助け起こす事もせずに見下ろす総司は凍えた月そのもの。
時に相手をすぐに捕らえられず、苛立ちを見せ、指導だというのに本気になる勝気な所も、そこで自制もせずに相手を叩きのめす所も、何も変わらない。
セイが女子だからと。
告白したからと。
容赦をする事が一切無い。
あの告白は無かった事になっているのか。
もう総司にとって振られた時点で自分はそういう対象から外れてしまったのか。
そう思うと同時に。
もしかして、自分は総司の本当の想いを知ろうとしていなかったのではないだろうか。
そう思い始めた。