「わぁ。セイちゃんヒドイ顔っ!」
「ヒドイ顔はいつもの事です。スミマセンネ。ブサイクで」
久し振りに富永家を訪問した総司を迎えたのは、目の下に隈を作り、彼を見るなり顔を顰めたセイだった。
「そっそんな事言ってないじゃないですかっ!」
「今言いました!」
ぶすっと頬を膨らませるセイに、いつもは笑顔で迎えてくれる筈の彼女のあまりの豹変振りに何があったのかと総司は傍にいた患者の一人に助けを求める。
「何かあったんですか?セイちゃん、物凄くご機嫌斜めなんですけど」
「沖田センセには見に覚えありませんか?」
にこやかに、明らかに張り付いた笑顔を返される総司は首を傾げる。
前回来た時まではもっと和やかな空気で迎え入れてくれていたはずなのに、今日はやたらとセイだけじゃなくその場にいる患者の視線や気配が自分に向かってやけに刺さる。
「沖田先生。私の事は私に聞けばいいじゃないですか」
「うわっ!」
ぬぅっと背後から地響きのような低い声を発するセイに、総司は振り返り思わず後退った。
ばくばくと跳ねる心音を抑えながら、総司は恐る恐る尋ねる。
「どうしたんですか?セイちゃん。…私、何かしました?」
「……何でもありません…」
「聞けって言っておいてそれはないですよっ!折角の可愛い顔が台無しだし」
「うっ」
ぶすっとしたままその表情の理由を答えないセイに総司が困り顔のまま呟くと、セイは頬を赤くした。
彼を見上げると、何処までも真剣で、素だ。
素で『可愛い』などと簡単に言える総司がまた憎たらしくなってくる。
「そ…そうやって他の女の子にも可愛いって言ってるんですか」
「え?そりゃ可愛い人に可愛いとは言いますけど…」
ばちーんっ!
パカーンっ!
「いだ――っ!」
左頬に掌の衝撃、後頭部に固く細長い物を打ち付けられる衝撃が総司を襲い、痛みに声を上げる。
「セイちゃんっ!?…と、富永さんっ!?」
頬を叩かれるのは見て取れたが、背後から来た人物がまさか一撃をかますとは思わず、しかもまさかの祐馬が鞘に入ったままの刀を下ろすのを見て驚いた。
「まさかそれで叩いたんですかっ!?危ないですよっ!っていうか、セイちゃんもですけど富永さんも素早いし、気配消すの上手過ぎですよ!」
「そういう沖田先生は女を口説くのがお上手なようで」
不敵に笑う祐馬に総司はまた後退りするが、下った所であまり意味は無く、背後には涙目でこちらを睨み付けるセイが睨みつけている。
「わ…私が何をしたって言うんですかぁっ!」
「沖田先生なんて大っ嫌い!もう来ないでください!近付かないでください!」
「貴方みたいな女ったらしにセイはやりません!二度と家の敷居を跨がないでください!」
三者三様に叫び、三人とも、言い終えると大きく息を吐いて互いを見る。
「どういうことですか!セイちゃん!嫌いって!?」
「自覚無いで色んな女の人に手を出すなんてサイテー!浮気男なんてごめんです!」
「セイは斎藤さんに貰ってもらいます!沖田先生なんかに絶対やりません!」
―――。
「セイちゃんは私のお嫁さんになってくれるんじゃないんですか!?」
「斎藤先生のお嫁様にもなりません!私は医者になるんです!」
「沖田先生!色んな人にって、小物屋の女一人だけじゃなかったんですか!?」
―――。
「!」
「!」
「!」
「アンタら取り敢えず一人ずつ喋ってみたらどうだ?」