風桜~かぜはな~9

セイはとぼとぼと屯所内を歩いていた。
ぼろぼろと大粒の涙を零しながら。
酷い言われようだ。
女子として全く見ていない。本当に子どもとしてしか見ていない。
そう突きつけられて、無性に悲しかった。
以前そう気付かされたが、改めて総司の口から直接聞かされた。
それでもどんな事を言われても、セイは総司のいい所を沢山知っている。
真っ直ぐに答える所も彼の良さの一つだ。
どんなに自分に関心が無いと分かっている人でも、それでも、あれだけ毎日会いに来てくれるのだから、もう少し彼にとって自分の存在は大きいのだと思っていた。
思い上がりもいいところだ。
勝手に期待して、挙句、勝手に落ち込んでいる。
そんな自分がほとほと嫌になる。
随分と長い事涙を零しながら歩き続けて、ぼやけていた意識が段々と明瞭になってくると、初めて自分のいる場所を認識し始めた。
「あれ?ここはどこだろう?」
振り返ると、建物の中を歩き回り、人の影も無くなっていた。
窓も無い廊下は薄暗く、セイは身震いをして、来た道を戻ろうと振り返る。
と、突然数本の手に掴まれ、そのまま部屋の奥へと引き込まれた。

「セイちゃ…神谷さーん!」
総司は足早に屯所内を走り回り、セイの名を呼ぶ。
しかし返事は無く、近くを通りがかる者にセイの容貌を伝えるが見かけた者もいなく、それが焦燥感を募らせる。
若衆姿とは言え、女子一人、しかも武器になるもの一つも持たないで歩き回るなんて無用心にも程がある。
芹沢の存命していた頃に比べたらずっと女子に対する問題は減っているが、それでも今尚時折、蛮行を行う者の話は耳に入っている。
同志を信頼していない訳ではない。それでも男である以上、男であるから故に内に潜む凶暴性が突然女子に牙を向けるという事も本能的に知っている。
もし、その牙がセイに向けられたら。
そう思うだけで、総司の腹の奥にあるどろどろとした黒く紅いものが蠢いた。
「沖田先生!」
声を掛けられ、振り返ると、全身に汗を掻いている祐馬が立っていた。
「セイがいないんですって!?」
「はい」
「あのお転婆娘!だからあれ程屯所に来てはいけないと言ったのに!」
唇を噛む祐馬に、セイの気持ちを松本に聞かされていた総司は「そうじゃないんです」と言いたくなったが、何と弁護して良いのか分からず、ただ彼を見つめた。
「今、斎藤さんにも探してもらっています。私はあちらを探しますので、お手数お掛けして申し訳ありませんが、沖田先生にもご助力願います。見つけたらきつく叱り付けますので」
また総司の胸がちりちりと痛んだ。
けれどそれは形にならないまま、そのままその場を離れる祐馬を見送った。
総司も改めて、今探そうと思った廊下の先を振り返り、走り始めた。
廊下はどんどんと暗くなっていく。
屯所内の奥の奥に入る程不安は募っていった。
そして入り組んだ奥の部屋で、激しい音が聞こえる。
ぞわり。
心臓が止まり、
全身の毛が逆立った。