今日の甘味屋は大福屋。
丁度昼過ぎ、夕餉までまだ時間のある間食時間は、甘味屋も繁盛する時間。
休憩を取りに来た町の人間が集まり、ざわざわと賑やかだ。
非番の総司とセイも玄庵に許可を貰って、二人も暫しの休憩を取っていた。
「おセイちゃんはズルイです」
「何がですか」
「斎藤さんと富永さんと一緒に呑みに行って」
言われて、セイは「ああ」と答える。
「だって沖田先生が私との約束をすっぽかしたからじゃないですか」
「うっ…忘れてたのは謝ったじゃないですか。ズルイですよぉ。私だってお二人と吞みに行きたいー」
「行けばいいじゃないですか。男三人の方が吞みに行きやすいでしょ?」
ぷくっと頬を膨らませるセイに、総司は泣き顔を見せる。
「誘ったんですけど、二人とも私と吞みに行くの嫌だって言うんですもん!」
「…じゃあ…妓の人と遊べばいいじゃないですか…」
「妓の人と遊びたい訳じゃないです!斎藤さんと富永さんと吞めなきゃ意味無いんです!富永さんいたらおセイちゃんも一緒に吞めるんでしょ!?聞きましたよ!おセイちゃん大トラだって!見たかった!」
総司の言葉にちょっとほっとしながらも、セイはぎょっとする。
「何言ってるんですかっ!誰に聞いたんですかっ!私大トラじゃないです!」
セイの否定の台詞に今度は総司が膨れた。
「隠したって駄目です。貴方べろべろに酔っ払ったって。それでお二人にべたべた抱きついていたって!ご迷惑掛けちゃ駄目じゃないですか!」
「私が自分の兄に迷惑を掛けてどうして悪いんですか!」
「斎藤さんにだって迷惑掛けてるでしょ!」
「それは兄がちゃんと謝ってくれました!沖田先生の気にする事じゃありません!」
そこまで言われて総司は、『そう言われてみればそうだ』と初めて気が付いたかのように目を見開き、そして恥ずかしそうに頬を赤くした。
「…貴方子どもだからつい保護者の気分になってました…」
「子ども子どもって失礼です!あ、もうほっぺも触らせませんからね!」
「え!何で!?」
真剣に問う総司に、今度はセイが頬を赤くする。
「兄上に言われたんです!無闇やたらと触らせるなって!」
「私の楽しみをどうして取るんですか!」
「嫁入り前の娘がやたらと触らせるなって怒られたんです!」
すると、総司ははっとした顔でセイに問い返した。
「おセイちゃんお嫁に行くんですかっ!?」
「行きませんっ!ってどうしてそこに反応するんですか!?」
「あーよかった。そうですよね。まだまだお兄さんの言う事ばっかり聞いてるお子ちゃまが行く訳無いですよね」
「何ですかっ!それ!沖田先生だって近藤先生の事一番なくせに!」
「当然です!」
「どうして自分は当たり前で、私は駄目なんですか!」
目を剥くセイに、総司が答えようとした所で、横から声がかかった。
「そんなに俺と酒を吞みたいなら付き合ってやる。全額アンタ持ちでな」
「セイ。父上が帰ってこないって心配していたぞ。今日は家で夕飯食べるから宜しく頼む」
言い合う二人が振り返ると、そこには斎藤と祐馬が立っていた。
「斎藤さん!」
「兄上!」
驚く二人を余所に、斎藤と祐馬はそれぞれ、総司とセイの腕を引く。
「え?ちょっと待ってください!」
「アンタが俺と吞みたいと言ったんだろう。望みを叶えてやる」
「いや。あの。四人で吞めるならっていうか、おセイちゃんがいなきゃ…」
「吞みたいのは俺と富永だって言っただろう。富永は今日家に帰るから諦めてやれ」
「おセイちゃん入ってませんでしたっけ?」
「入ってなかったな」
総司、斎藤が離れていく一方で、もう一方は。
「兄上、どうしてここに?」
「父上が心配していると言っただろう?それに沖田先生が非番だという事は俺も非番だ」
「そっか…そうですよね!」
「お邪魔だったか?」
「いいえ?…沖田先生…茶屋に吞みに行かれるんですよね…妓の人と遊ぶのかなぁ…」
「気になるのか?」
「いいえ!…いいなぁ。兄上はいつも沖田先生の傍にいられて…」
「…セイ。今日はおでんが食べたいなぁ」
「はい!頑張って作りますね!」
セイは笑顔で答えた。