気が付けば、総司はセイの唇に己の唇を寄せていた。
一瞬のような長かったような。
ふっと互いの吐息が離れると同時に、二人は互いを凝視ししてしまった。
「……あれ?」
「……お…きた…せんせい…?」
スパーン!
向かい合う二人の前に刀が振り下ろされた。
咄嗟に総司はずっと握ったままのセイの手を放し、刀が通る分だけの距離を作った。
呆けたままのセイは動けずに、目の前を刀が通り過ぎるのをただ見つめていた。
二人が座っていた長椅子が綺麗に一閃され、二つに分かれる。
支えを失った椅子はそのまま内側に向けて倒れ込み、総司はすぐさま立ち上がり、為すがまま倒れそうになったセイを支えようとするがその前に、彼女の脇に男の腕が入り込み、セイは倒れこむ事無く、男に抱き止められた。
「あははははは。沖田先生。こんなところで今日は甘味を食べていらっしゃったんですね」
「富永さんっ!?」
「私はただの通りすがりですよ。ええ。セイに今日はついてくるなと言われてますから。偶々です。偶々偶然通りがかったらお二人がいたんですよ。いやぁ奇遇だなぁ」
「き…奇遇です…か…」
明らかにどす黒い瘴気を発している祐馬を見つめ、総司は怯んでしまう。と背後から殺気を感じた。と同時に。
どがっ。
容赦ない蹴りが総司の背中に叩きつけられた。
「沖田さん、奇遇だな。俺は偶々巡察帰りに通りがかっただけだぞ。偶々偶然あんたが通いそうなところだと見ていたら偶々通り道にいたあんたを蹴り飛ばしてしまっただけだからな」
そう言いながら斎藤は地面に倒れ込む総司を負の気を放ちながら悠然と見下ろした。
「…斎藤さん……私の味方をしてくれたんじゃなかったんですか……」
「何の事だ。俺はいつだってセイの味方だ。アンタの味方なんて寒気がする」
「ヒドーイ」
総司が顔を上げると、二人の男から怒りの形相で睨まれていた。
明らかに、今の一瞬の出来事を見られていたのは明白だった。
セイを見ると、彼女は呆けたままだったが、総司の視線を感じた事で我を取り戻した彼女は彼と視線が合うと、一気に頬を染め上げた。
「お…沖田先生…今…」
彼女は動揺していたが、逆に総司は本能のままセイに触れた事でか、蹴り飛ばされた事でか、色々考えていたはずの事が一気に吹き飛び、逆に自分でも驚くくらい落ち着きを取り戻していた。
「セイちゃんが大好きだから口吸っちゃいました」
晴れやかに笑う総司に、セイは口をぱくぱくさせる。
そして同時に黒い瘴気が更に濃くなり、総司に一心に降り注ぐ。そのまま呪い殺されてしまいそうだ。
けれど総司はただセイだけを見つめ、微笑んだ。
顔を真っ赤にしたままのセイも祐馬の手から逃れると、総司の前に膝をつき、意を決したように向き合った。
そして。
今度は彼女か、総司の唇に己の唇を重ねた。
「私も沖田先生が大好きだから、すっ…吸っちゃいました」
頬を染め、笑うセイに、総司も思わずまた笑みが零れる。
きっと二人を見下ろしている兄二人は真っ青になっているだろう。
それでも、もういいと思った。
「セイちゃん。私のお嫁さんになってください」
「はい!」
この京で初めて出会った日。
あの日総司の手を取り、向けてくれた笑顔と同じ、大輪の花のような笑顔で、セイは応えた。