勝負は一瞬だった――。
「先生!三日間会えなかったのがそんなにせいせいしてたんですかっ!?」
「え?」
涙を浮かべて睨みつけてくるセイに総司は不思議そうに首を傾げる。
「全開の笑顔じゃないですか!」
「あ。…あー。それは……違うんです。セイちゃんに会えたのが嬉しくてっ」
ぼっ。
率直に告げられる回答に、セイは顔を真っ赤にした。
「久し振りに家族三人だけの食事は美味しかったですよ。沖田先生」
「…富永さんがイジワル言うー」
「最近、何故か家族じゃない人が一人交ざっての食事が多かったですから」
「そんな中、俺が邪魔しても良かったのか?」
「斎藤さんは別格ですよ」
横でぽつりと呟く斎藤に祐馬は笑って答えた。
「えー!私が会えない間斎藤さんはセイちゃんと会ってたんですかっ!?私だって遊びに行きたかったのに!」
「あんたは敵として勝負を申し込まれたんだ。自重して当たり前だろ」
斎藤は悠然と総司に返す。
「もういいじゃないですか!沖田先生お願いします!」
セイは話を切って、総司に向き直った。
場所は先日も手合わせした道場。
総司もセイも道着に着替え、互いに向き合っていた。
そして、見届け人として斎藤と祐馬が離れた場所に座る。
他の野次馬たちは締め出し、道場の戸は全て締めた。窓から覗く者もいたが、そこは何故か妙にセイの肩入れをする一番隊の精鋭たちに守らせた。
中村も立ち会いたいと希望していたが、総司、斎藤、祐馬の三人から却下された。
セイとしては指南してくれたのだから見守って欲しいと願ったのだが、三者三様に批判され諦めざるを得なかった。
そして。
一つ。セイが覚悟していた事。
「沖田先生。どうぞ真剣で勝負して頂けませんか?」
「死にますよ?」
「はい。その覚悟が無ければ最初から手合わせをお願いしません」
「セイ!」
祐馬が声を上げるが、セイはそちらを振り返る事はせずに、総司の目を真っ直ぐ見据えた。
「元々ただの女子が、武士である沖田先生に勝負を申し込む事自体、先生に恥をかかせる事にもなるし、死に値する事なんです。沖田先生の優しさに甘えて申し訳ありません」
「そんな事は…」
深々と頭を下げるセイに総司は戸惑うが、彼女の覚悟は彼女の纏う空気から十分に伝わってくる。
だからこそ、総司も甘い考えを捨てた。
セイを真に思うのなら、彼女の思いに報いてやら無くてはならない。
どうであれ、彼女は対武士としての勝負を申し込んできたのだ。
寧ろ総司は今まで彼女を何処か下に見ていた自分を恥じ入った。
女子であるとか、祐馬の妹であるとか、今まで総司の中にずっとあったセイに対する優しい思いを、全てを捨てた。
彼女は子どもでもなければ、庇護される存在でもない。
セイはセイなのだ。
総司が大刀を構えると、セイはにこりと笑みを浮かべ、そして、己も手にした刀を構えた。
―――鞘には見覚えがある。
中村が同系の物を使っていた。
総司の雑念はそこで途切れた。
互いに間合いを取り、距離を計る。
じりじりと迫る互いの気迫に、道場内の空気がピンと張り詰めた。
ざり。
空気が動いた。
――勝負は一瞬だった。