風桜~かぜはな~11

 怒声と共に投げかけられる言葉に、セイは真っ向から答えた。
「女を見て見境無く襲い掛かる程度の武士としての矜持しか持たないこの人たちの責任は取れません!私の責任は二度と新選組には関わらないそれだけです!」
 はっきりとした断言に、土方は一瞬唖然とし、そして苦笑した。
「ああ。その通りだ」
 そう言って、土方は己の羽織っていた羽織をセイの肩に掛けてやる。
「気の強ぇ女は嫌いじゃねぇ。総司が飽きたら相手になってやる。もう少し乳でかくしておけ」
「土方さんっ!」
 総司はセイに駆け寄り、彼女の己の懐に寄せる。
 その際に彼女に掛けられた羽織はぱさりと肩から落ちた。それを楽しそうに見遣りながら、土方は総司を見る。
「そうか。そいつが富永の妹か」
「!?」
「昔から兄貴に会いに来てた小娘がいたよな。総司も富永も俺が会いに行こうとするといつも妨害しやがったから顔見た事無かったよな」
「それは…」
「富永は妹を男だらけの巣窟に出来るだけ近付かせたがら無かったからな。お前は俺に取られるとでも思ったか?」
「違いますっ!言ってくれれば会わせてました!そういう機会が無かっただけでっ!」
「富永に頼んでおくか。総司の嫁にくれ。と」
『止めてください!』
 重なった声に驚いたのは、声を発した当人の総司だった。もう一人の人物のセイを見る。
 セイは総司から離れると、襟元を直し、土方を見る。
「私はお嫁に行くつもりはありませんので。松本先生に指示を仰いで医学の道を進みます。兄上に命令したとしてもお断りします」
 それだけを言うと、スタスタと彼女は来た道を戻る。
 それと同時に祐馬と斎藤が駆け込んできた。
『セイ!』
「あにうえ~っ!」
 祐馬の顔を見たと同時に、セイは一目散に兄に抱き付いた。
「無事か?何事も無かったか?」
 いつも冷静なはずの斎藤も息を切らしながらセイの顔を覗き込む。
「はい~!斎藤兄上~!」
 そう言うと、祐馬の着流しの裾を掴みながら斎藤の腰に抱きついた。
「…すげぇ…さっきとの態度の格差にときめく…」
 中村が一人呟くと、総司から冷たい視線を浴び、縮み上がった。
「あれ。お前もされたいだろ」
 横から土方に投げかけられる言葉に、総司は苛立ちながら顔を向ける。
「相当努力しないとあの女は捕まえられねーぞ」
「そんなんじゃないですってば」
 総司は頬を膨らませながら答える。
「お前が傍にいるならあいつが松本法眼の助手として屯所に来る事許してやる」
「どうして私がっ!」
「俺はそこまでだ。後はお前が選べばいい。本当に欲しい女かどうか」
 そこまで言うと、土方はその場を離れ、未だ床に倒れたままの隊士たちの始末に人を呼んでいた。
 総司の目の前には未だ祐馬に抱きつくセイの姿。
 その表情は安心しきり、先程までの男らしい空気から一気にいつもの女らしい本来の雰囲気に戻っている。
 甘えた表情を見せるセイに苛立ちを覚えた。
 しかも祐馬だけならまだしも、斎藤にまで同じ表情を見せているのがまた彼の苛立ちを助長した。