2017/4/7
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――桜が舞う。
総司は見上げ、青空を鮮やかな薄紅色に染める花弁を見上げた。
そして足元を見下ろし、薄紅色に染め上げられた道にはたりと落ちていた桜の枝をそっと拾い上げた。
春一番の強い風に煽られ枝から投げ出されてしまったそれを潰れないように枝を摘み、枝から切り離されても鮮やかに咲き誇る桜の花々を見つめた。
今、桜色に染められた世界にいるのは、総司ただ一人。
いつもなら何気無く、いつも隣にいる少女を誘えた。
今日の朝までは誘って一緒に来ようと思っていたのに。
前の年に見つけた、野山に少し入ったところにある、誰にも知られず咲き誇る桜の木々。
今年は一緒に見に行こうと約束していた。
去年と今年で己の中にある想いがこんなにも変化するとは露とも知らず。
少女へ抱く、柔らかな痛みと少しずつ蓄積していく熱。
それは一日一日共に過ごす事で、ほんの少しずつ、彼自身も自覚の無いほど少しずつ、けれど溶けて消える事も無く積もっていた。
気付かないままでいればよかった。
あの人を想って涙を零す己に一生気付かないままでいられたら楽だったのに。
それでも幸せな想いは総司の胸を少女の存在そのままの桜色に染められていく。
それは突然だった。
積もる想いがふとした拍子に溢れ零れるなんて知らなかった。
いつもと同じ日常。
いつもと同じように彼女の名を呼び。
彼女が振り返った瞬間。
もう。溢れていた。
あの人を想える幸せ。
あの人が傍にいる幸せ。
それが満たされると――嵐に変わるなんて。
切り離された枝はもはや果てるしかないはずなのに、そんなことを少しも感じさせる事無く、総司に拾われた桜は凛と咲き誇り彼の魅せ続ける。
まるであの人のよう。
きっと総司がこの想いを溢れさせても。
隠し続けても。
彼女を突き放しても。
傍にいることを望んでも。
彼女はきっと、彼女の名のままに咲き誇り続ける。
それは悔しくて、ひどく嬉しい。
だから、きっと、手放すことだけはしない。
溢れた熱であの人を傷つけないように。
総司は手の中の桜の花弁に、そっと、深く――口付けた。
2016/11/6
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8/7