4.甘党なんです5

証言其の伍 セイそして結論

セイは総司に抱えられたまま、土方の部屋から離れ、凡そ普段人の出入りが無いであろう屯所の隅の部屋まで連れて行かれると、その場に下ろされた。と思ったのも束の間、総司はセイを後ろから抱き締めてくる。先程までとは違い、ぎゅっと強い力で抱き込まれ、セイは思わず骨のぶつかる痛みに顔を顰める。総司はセイの首元に顔を埋めると、顔を見せないように俯き続けていた。総司の呼吸と共に吐き出される空気が項にかかり、こそばゆい。
セイは呆れ混じりに溜息を吐くと、そっと総司に話しかける。
「どうしたんですか?沖田先生」
「・・・・・」
「もう逃げませんから」
そう呟くと、総司はセイに巻きつく腕の力をもっと強くする。
「痛っ!痛いです!」
「・・・・・七日ぶりですよ」
「はい?」
腕の力を強めながら呟く総司の言葉に、セイは意味を掴み取る事が出来ず首を傾げる。
「神谷さんと七日間会えなかったんですよ。毎日毎日ずーっと毎日一緒だったのに」
「仕方無いじゃないですか。お仕事だったんですから」
セイの溜息交じりの言葉に総司はばっと顔を上げると、頬が触れるか触れないかの距離から彼女を覗き込む。セイは互いの顔を近さに反射的に身を引こうとするが、がっしり抑えられてそれも敵わない。
まっすぐ見詰めてく瞳を逸らせないまま、見詰め続けると、総司はぷぅっと頬を膨らまし、拗ねた口調で話し始める。
「どーせ神谷さんは寂しくなかったんですよね。毎日斉藤さんと一緒に稽古して、遊んで、甘味屋に行っていたんでしょう。土方さんとも仲良くなっちゃって、どーせ私だけ置いてけ堀ですよーだ。折角神谷さんに早く会いたくて急いで帰ってきたのに。私なんてどうでもいいんでしょ。神谷さんの薄情者!」
何だろう・・・。浮気をした夫を責める妻のようだ・・・。寧ろ立場逆!
そんな事を冷静に思いながら、余りにも嬉しい総司の台詞に頬ずりされようが、彼の膝の上に座らせられようが、呆然として、為すがままになって固まってしまう。
それは。
つまり。
「・・・沖田先生・・・悋気でしょうか?」
セイの問い掛けに、ぴたりと頬ずりを止め、彼女を見詰めると、暫し沈黙し、口を開く。
「・・・そうなんでしょうか?」
がっくし。
彼がそんな事を自覚する訳でもなく、認めるような人でもないと分かっていながらも、それでもやはりかと肩を落とさずにはいられない。
「神谷さん」
「はい?」
諦め声で頭上から声を掛けてくる総司に返答し、見上げるセイ。
「!?」
呼吸が掛かってしまうのではないかという程間近にあった総司の顔に、彼女はぴしりと固まり、顔を真っ赤にする。
その彼女の行動に満足したのか、総司はにこにことこれ以上無いと言う位満面の笑みを浮かべる。
「私甘党なんですよ」
「知ってます」
「三日我慢するだけで、胸がむかむかする様な、寂しいような気持ちになるんです」
それを恋と一緒にされていましたよね。とセイは心の中で呟く。
「神谷さんをぎゅっとしないと落ち着かないんですよね。でもこうやってぎゅっとすると、すっごく甘くて、美味しいお菓子を食べた気持ちになれるんです」
「・・・・・」
セイは恐る恐る顔を上げる。
「先生・・・それって・・・」
すると、総司は笑みを浮かべ、
「神谷さん。ただいま帰りました」
嬉しそうに今朝最初の告げた言葉を再度繰り返した。
何度もこの笑みに絆され、彼の感情を読み取る前に、誤魔化されてしまうけど。
まあ。それも良いか。
彼が自分といる事に喜びを感じてくれているのなら。
セイは、そう思う自分に、呆れ、苦笑してしまう。
そして誰よりも想う彼を見上げ、彼女は最高の笑みを返した。
「お帰りなさいませ。沖田先生」

2011.03.13