天空の羽 地上の祈りとともに4

(SE・足音[2人]FO 廊下を歩くウイルドとルーカ)
ルーカ   「くぁ~~~~! ああむかつく!あのオヤジ!もう少し何か言ってやればよかった!」
ウイルド  「・・お前は無茶苦茶しやがって。あのまま殺されても何も言えないんだぞ」
ルーカ   「無理だよ。何か脅してたつもりみたいだけど、あのオッサンに今の私は殺せない。だってまだ私何もしてないもん。本当に私が神に護られてるかどうか向こうだって半信半疑だしね。今、私を殺したら何が起こるかわからない。神様が怒るかもしれない。もしかしたら何も起こんないかもしれないけど、戦場に行かせたら何か起こせたかもしれないと後悔するかもしれない。占いを信じてるみたいだからね、その占いを自分から捻じ曲げたりなんかしたら、下手したらこの国滅んじゃうかもしれない。と、向こうは勝手に考えてると思うから。だから私を殺せない」
ウイルド  「・・・くっ・・くくく(声を殺して笑ってる)」
ルーカ   「何故笑う!?」
ウイルド  「ただ単に怒りが頂点に達して、何も考えずにぶちかましたわけじゃないんだな」
ルーカ   「んにゃ。実は今思いついた」
ウイルド  「くっ・・あははは・・。まったく。お前には本当に驚かされる。仮にも王であるあの父親に口で勝つとはな」
ルーカ   「だって許せないんだもん!何あのえばりくさった口調!人を何だと思ってんの!?」
ウイルド  「王だからな。城には助言する者はあっても、批判するものはいない。王の決定は絶対だ。例え息子のオレであってもな」
ルーカ   「だーかーら。王様のぬわぁにが偉いの?王だったら何でも許されるの?王は王であるから偉いんじゃないんだぞ。国民に尊敬されて初めて偉いんだ。農民は食べ物を作る。商人はそれらを買って売さばいてお金の循環をよくする。創作家や研究者は皆がよりよく生きるために新しいものを生み出す。王様はそんな皆の生活を保証する。皆誰一人欠けちゃいけない大事な役割。王様は国の皆の命を預かってる。自分よりずっと重い責任を持っていると思うから、皆、尊敬するんだ。だからって自分は偉いんだとえばりくさるような奴はただの馬鹿だ」
ウイルド  「王が馬鹿だというのか!?それはお前が王の執務をこなす姿を見ていないから言えるんだ!・・・」
ルーカ   「そんなの知らないよ。王様は尊敬してるよ。私が言ってるのは、偉かったら誰の意見も聞かなくていいのって事。立場の低い人間の話は聞く価値もないの?」
ウイルド  「・・・そうか。そうだな。それで王にあんな態度を取ったんだな」
ルーカ   「あったり前でしょっ!人の行動勝手に決めちゃって!人の話聞こうとしないし、あのまま流されたら家に帰れなくなっちゃうじゃない!今だって帰れる保証ないし!王様の操り人形なんかになってたまるもんか!」
ウイルド  「(笑って)確かにな。さっきのあの演説。あれではお前の存在を少しも大きく見せることはなかった。誰もお前のことを神の威をかりた者として神聖視することはないだろう。他国の絶対的な脅威となり、この国の士気を高めるための駒にするはずだった王の目論見は失敗したわけだ」
ルーカ   「ざまーみろってんだ」
ウイルド  「・・しかし、お前は占いに現れ、今ここにいる。御子というある種の権力を与えられた時点で果たすべき責任は生じてこないか?」
ルーカ   「じゃあ聞きますけど、勝手に占いに出ましたーって御子とか言われて、無理矢理連れてこられて、利用されるだけ利用されて、その権力を持っているとか言う御子様の言葉は何一つ受け入れられないで、どの面下げて責任を持てと言えるのかな?ばっかじゃないの。人一人の人生滅茶苦茶にしといて」
ウイルド  「・・・・・すまない。オレ自身、占いを信じているわけじゃない。だがマスティアの占いははずれた事がないんだ。お前には突然のことで迷惑ばかりかけている。どんな形であれ、誰かを犠牲にすることは間違っていることだと王も分かっているんだ。だからといって、今さら自らの決断を取り消すわけにはいかない。もう歴史は動き始めているのだから。このまま国を滅ぼすわけにはいかないんだ。王として」
ルーカ   「人一人の人生は国より軽いの?」
(SE・足音FO ルーカ歩き始め、ウイルドから離れる)

ウイルド  「国は理屈じゃ動かない。正論じゃ成り立たないんだ。神に護られた御子だということをオレはまだ信じたわけじゃない。けど、あいつは凄い奴だ。あいつは演説で王の目論見に抵抗しただけじゃない。もう一つのことをやってのけた。国民はあいつを神聖視することはないだろう。しかし、人間として、あいつに対する信頼感、親近感は高まったはずだ。王の狙いとは別の方法で、国民の士気を高めたんだ。狙ってやったのかどうかは分からない。しかし、言葉だけで国民の心を一つにしたあの統率力を他国は危険視し始めるだろう。神の力じゃない。あいつ自身に注目し始める。あいつが望まなくとも。」
ルーカ   「(離れたところから)どーしたの?心配しないで。ちゃんと前線には行くから。今まで無関心で何も感じなかったけど、一度関わった以上最後まで見ないと後味悪いからね。あんの王様の思い通りになるのはしゃくだけどね」
ウイルド  「(笑う)ああ。頼む」