kaze-sstwitterlog3

「神谷-!神谷はいるか!」
聞きなれた怒声に誰もが驚かずにさて、と顔を見合わせる。
「何かしたんですか?」
「・・・沖田先生。なんで何かした前提なんですか?」
じと、とセイは総司をにらんだ。
「神谷!俺が呼んだのに何故すぐ出てこねぇ!?」
「……ナニサマデスカ」(小声)
「何だと!?」
「私何も言っておりませんが」
「聞こえてねぇと思っ……まぁ、いい。お前ともについてこい」
「土方さん。私じゃないんですか?」
「今回は総司の出番はねぇ」
「不満は不満ですけど、仕方ないですね」
「なんだと!」
「なんですって!」
なぜかダブったセリフはさておき、ほじほじと耳に指を突っ込んだセイは、肩をすくめて隊部屋へと引き上げた。
どうせ土方の支度もあるだろう。
自分の支度を先にと歩き出す。
「神谷さん・・・」
「そんな顔をしても駄目ですよ。副長がああいうときは特にご存知でしょう?」
ううう、とセイの背後で唸り続ける総司に、隊士たちがにやにやと笑う。
「沖田先生。いっそ、神谷の行李に入っていったらどうですか?」
「それいいですね!」
「…沖田先生本気にしないでください」
「えっ!?私折角準備してたのに!?」
「取り敢えず副長のお供をしてきますよ。日帰りじゃないこともないでしょうし」
「神谷!まだかっ!?」
「はいはいはいっ!ただいま!せっかちだなぁ」
「…あんなに張り切る土方さん不安です!」
先を急ぐ土方の後を追いかけてセイが小走りに笠を押さえながらかけていく。
「……心配だなぁ」
「沖田先生。脳みそがダダ漏れてます」
「……はぁ」
「(そんなに心配かね?たかが日帰りの・・・)」
ひそひそと囁く隊士をよそに、とぼとぼと総司は局長室に向かった。
「近藤先生。沖田です」
「おお。総司か。入れ入れ。ん?どうした?浮かない顔で」
「…土方さんが神谷さんを連れてっちゃったんです。特命なら組長の私を通してほしいのに」
「総司は本当に神谷君の事が大好きだなぁ」
「そっ!…そんなんじゃないですよ…まだ子どもですし…」
「ただ、安心しろ。今日の伴は特命ではないから心配ない」
「じゃあ…?」
「この間黒谷に行っただろう」
「はい…あっ!」
「その時にお会した方にトシの悪い癖が出て喧嘩腰になってあわやと言うところを神谷君が機転を利かせておさめてくれただろう」
「ああ!あの!」
「そう。その詫びにとのことだ。あれで歳も神谷君を頼りにしてるんだろう」
「・・・それだから」
「ん?」
「なんでもないです」
「困ったやつだな。ほら。これでも食べて機嫌を直せ」
ひねられた金平糖を総司の膝の上に落とした。
「トシもあれにはかなり感謝してたらしく外泊届けも出してしっかり労うつもりらしいぞ」
「外泊!?」
「格の高い宿頼んでたし。後、神谷君とトシは似てるところがあるだろう」
「?」
「例の病のせいで風呂もままならないのを気づいててな。ゆっくり浸からせてやると言ってた」
「あ…」
そういうことか、と呟いた総司はふーっとため息を履いて空を見上げた。

「早く来い。神谷」
「わかっております!」
土方がわざとではないかと思うくらいの速足で進むのを息を抑えながら急ぐ。船場から船に乗ればすぐに大阪である。
「おら!乗れ!」
「うわっ…突き出さないでくださいっ!船がゆれるじゃないですか!っていうか、この船大阪行き…日帰りじゃないんですか!?」
「誰が日帰りだって言った」
「他には行く人いないんですか!?」
「俺と二人だ!」
「――帰ります」
「なっ!?人が折角!」
乗り込んでから折角の他行に腹を立ててばかりではと思い直す。
「申し訳ございません。言い換えます。泊まりならそう言ってくだされば副長の分も支度をしましたが」
「あぁ。そんなことは構わん。なんとかいう、老舗の料亭らしいからな。向こうに用意させるさ」
「はぁ……。そんなものですか」
「ああ。こちらの都合も聞かずに、日時を指定してきたんだ。そのくらいはいいだろう」
なるほど、あの時も土方といい勝負だった相手は普段から土方と行動が近いらしい。それはそれで、また面倒でもあるが、今は面白い方が先に立った

「お待ちしておりました。土方様、神谷様」
「頼む。童何口開けてる!」
「…副長、本当ここでいいんですか?」
「恥ずかしい奴だな!新選組がなめられるだろ!おら!女将!悪いがこいつを先に風呂に連れてやってくれ!」
「はい!?そそんな!そう!上役置いて先に入れません!」
「今日だけは許してやる!おら!一人で入ってこい!女将!貸切り風呂ひとつ頼む」
「心得ました。神谷様どうぞこちらへ」
「えっ?」
「何でお前はそう一々変な顔をする!?」
「いえ!」
「お前が済んだ後に俺も入るから安心して入ってろ」
「…はぁ」

「豪華なお風呂に豪華な料理…」
「呑め!」
「副長の背中流すのもさせてもらえなければ、酌までされる…私今日にでも副長に消されるんですかね?」
「人が労えばお前はぶちぶちと」
「労ってくれてるんですか!?されるようなことした覚え何にも無いんですけど。槍でも降る…」
「おい!」
「本当に何があってこんな豪華な場所に副長と二人きりで泊まらなきゃならないんですか?」
「とことん喧嘩を売るな。お前は」
「私たちの仲なんて私たちが一番良くわかってるじゃないですか」
「…この間助かった…」
「はい?小声で聞こえま」
「助かったと言ってる!」
「はい?」
「この間の…件だ!先方も大人気なかったと神谷を労えと用意してきたんだ!文句あっか!」
「ぷ…」
「笑うな!」
「喧嘩腰に赤くなりながら言う事ですか。いい大人なのに」
「くそ」
「副長ったらかーわいんだからっ」
「それ以上総司の真似しやがったら今ここで斬る!」
「副長ありがとうございます。その方にも帰ったらお礼の文を書きますね」
「…っ!」
「まだ副長顔が赤いですね?」
「知るかっ!呑め!」
「はいはい。頂きます。副長に接待される貴重な機会ですから。でも、この宿そうであれば副長へのお詫びも含まれてるんじゃないですか?」
「あ?んなことあるか。文には神谷をよく労えと」
「…よくよく副長と似てらっしゃる。あの場には局長と沖田先生もいらっしゃったんですよ?それなのに私たち二人だけにと言う事は、副長にも遠回しでお詫びのつもりなんですよ」
「!」
「はー。どちらも分かり辛い性格で」
「俺は知らん!呑め!」
「はいはい」
「…帰ったら俺も文を書くから遣いに行け」
「承知」
「…お前も本当なら俺よりも総司と来たかっただろう」
「…副長も局長をお連れしたかったんじゃないですか?」「…そうだな。かっちゃんに泊まって貰いたかったな」
「沖田先生がいらっしゃったなら喜ばれたでしょうね」
「……総司を頼むぞ」
「どうしたんですか?突然」
「衆道ならすぐにでも斬るが…あいつは刀の腕は半端無く強いが脆い。それを俺やかっちゃんは見てきている。しかしな、お前がいると総司の奴も…な」
「?」
「お前の強さに引き上げられる」
「…そんなこと」
「だからお前に総司は必要だろうが、総司にもお前が必要だ」
「…っ」
「神谷、沖田を頼む」
「…承知!」
「一度しっかりと対で言いたかったんだ。こんな事新選組の命令じゃない。ただの私情だからな…くそっ!呑め!」
そんな土方に付き合って、それなりの酒を飲んだ後、結局、どこででも眠れるセイは、健やかに眠り、漫才のような掛け合いをしながら屯所へと帰っていった。

「あれ?沖田先生?船着き場に何故?」
「お土産を受け取りに来たんですよ」
「けっ。過保護なこった」
「お帰りなさい。土方さんと旅行は楽しかったですか?喧嘩しませんでしたか?」
「…すっごく楽しかったです!お土産だけ迎えに来た沖田先生といるよりもずっと!」
「それは言葉の綾で!」
「副長参りましょう!」
「転ぶなよ。童」
「転びませんよ」
「あれー。何か二人仲良くなりすぎじゃないですか?私除け者?」
「いいのか?凹んでるぞ?」
「副長!私守りますからね!」
「――頼む」
「沖田先生早く帰ってお土産食べましょう!」
「はい!」

2017/04/02
ツイッターで狐様とお遊びでリレーssアップしたものです。
毎回お付き合いありがとうございますv