13.不器用な想い6

総司は縁側に座り、ぼんやりと空を見上げていた。
そうしてぼんやりと流れていく時を過ごすと、小さく溜息を吐く。
彼はここ数日間、そうやって無為に時を過ごしていた。
「時間を持て余しているようだな。沖田さん」
後方から掛かる声に、彼は振り返り、声を掛けた人物を認めると、笑みを浮かべる。
「斎藤さん」
いつもの癇に障るほどの無神経な程満面な笑みではなく、何処か気の抜けた空元気から来る笑みに、斎藤は顔を顰める。
その原因が神谷清三郎である事は明確で、それがまた彼に苛立ちを感じさせる。
寂しさを感じているのはお前だけではないのだ。小さな少年隊士を大切に思い、心配しているのはお前だけでは無いのだと。
しかし、今の風にも飛ばされそうな程目に見えて憔悴する男に、そう言い放つ事が出来ないあたり、自分もまだまだ甘いな。と斎藤は心でこっそりと溜息を吐く。
そして、今、己が取ろうとしている行動も。
そう思いながら、彼は懐に入っていた小さな包みを無言で総司の頭の上に乗せる。
「?…あ、金平糖だ…ありがとうございます」
総司は不思議そうに己の頭の上に乗った包みを掌に乗せ、開くと、中には色とりどりの星の形をした金平糖が入っていた。
彼は嬉しそうにそれをひょいと摘み上げると、ぽいぽいと口の中に放り込んでいく。
「神谷が法眼の元へ言ってから四日か」
斎藤の呟きに、総司の手がピタリと止まる。
「お仕事大変なんでしょーね。全然帰って来る気配は無いし」
「頑張っているらしいぞ」
「斎藤さん!?何で知ってるんですか!?」
返す斎藤の言葉に、自分の知らない情報を聞かされ、総司は思わず斎藤を見上げ、目を見張る。
ふと、満足そうに笑う斎藤に、総司は思い出したように「ああ」と声を上げると、彼の情報元に納得し、また目の前の金平糖に視線を戻す。
「山崎さんですね」
監察方がセイと中村の様子を近藤らに逐一報告している姿を総司は見ている。
彼はその情報の一部を何処からか入手したのだろうと納得した。
「本当にもう…。あの人はいつも何かしでかすから。今も何処かで何かに巻き込まれていないかと心配なんですよね。過保護だって言われるかも知れないですけど」
「確かに清三郎はあの容姿にあの行動力だ。目立ってしまうのは仕方が無い。その分様々な人間があれに惹かれるというのも事実だが」
「そーですねー」
総司は斎藤の言葉を受けながらも、ぼんやりと空を見上げている。
そんな彼を横目で見ながら、斎藤も彼に続いて空を見上げた。
「だから今もぼんやりと清三郎の事を考えていたのか?」
「なっ…ちっ…違いますよ!」
唐突な斎藤の問いに、図星を指されたのか総司は真っ赤になって否定する。
「違う事は無いだろう。菓子好きのあんたがここ数日甘味屋に足を運んでいない。知っているか?最近噂が立っているのを」
「?」
「清三郎がいなくなってから、沖田総司は神谷欠乏症になっている。というのだ」
「何ですかそれーー!」
総司は初めて聞かされた噂に声を上げる。
「大食らいのあんたが夕飯に来ない。声を掛けても上の空。稽古は無意識で行っているのか手加減知らず。その上この間の巡察で小便担桶をひっくり返したらしいな。真昼間に」
つらつらと並べられる項目に総司は何かを言い返そうと唸るが、どれも身に覚えのある事ばかりで言い返す事が出来ずに唸る事しか出来なかった。
反論できるとすれば…。
「…別に神谷さんのせいじゃ…」
「実はこの金平糖清三郎に貰ってな」
「え!?」
斎藤が自分を置いてセイと会っていると言う事実に、総司は思わず声を上げるが、見つめ返してくる斎藤の視線に彼が鎌を掛けただけだという事に気がつき、反応してしまった自分が妙に恥ずかしくなって頬を染めた。
「…斎藤さんの意地悪…」
「男に上目遣いで頬を染められても気持ち悪いだけだ。あんまり思いつめて巡察の時気を抜くなよ」
未だに睨んでくる総司の視線をかわし、斎藤はそれだけを言うとすたすたと彼の元を離れていった。