風桜~かぜはな~2-6

「沖田さん」
「はい?」
屯所内で刀の手入れをしていた総司に、斎藤が後ろから声をかける。
腹黒いくせに疚しい所何一つ無いといった斎藤から見ればいつも嫌味な程さわやかな笑顔を向ける総司に、内心不快さで一杯になりながらも無表情のまま彼に聞きたかった事を問いかけた。
「アンタ最近、セイの元へ行ってないらしいな」
「あ…。そうなんですよね。ちょっと最近忙しくて」
やはりにっこりと変わらぬ笑顔で返す総司に、斎藤は「そうか」と頷いた。
無表情で人に心を読ませないようにする斎藤とは真逆に、笑顔で真意を見せないのは総司の得意とするところだ。
互いに武士の為、万が一敵に捕まった時、対峙する時、心を読まれては命取りになる危険をいつだって孕んでいる。
だからこそ、武士という道を極めれば極める程人に心を読まれない手段を各々自然と其々方法で身につける。
「その割には非番の日に、セイを放っておいて足繁く通っている所があると聞いたが」
故に、真意の見えない笑顔の総司に揺さぶりをかける為、斎藤はズバリと聞き出した。
案の定、セイの事に関しては素直な総司は、一気に頬を紅潮させていく。
「だ…誰から聞いたんですかっ!?」
「ここ何日かアンタが店に足繁く通って女と楽しそうに話しているとうちの隊の隊士が言っていた」
「えぇっ!?見られてたのか。やだなぁ…」
そう呟くと、総司は顔を挙げ、縋り付く様に斎藤に懇願した。
「あの!セイちゃんには秘密にしておいて下さいね!絶対!」
「…そうか。分かった」
既に屯所内に噂は広まっているがな。
斎藤はそう心の中で呟く。
沖田さんが近頃小物屋の娘とやたら仲良さ気に話していて、頬を染めて話している姿はまるで恋仲のようだと言われているのも知らないだろう。
しかもアンタは最近行ってないから知らないと思うが、既にセイも知っている事だ。
アンタの浮気を知ってから、セイのここ最近の荒れ具合といったらそりゃ酷いものだぞ。
それだけ想われているのに、アンタは他所の女に手を出したんだ。
そのままセイとの中が破局してしまうのなら、それは沖田さんが悪い。
聞いたら教えてやるんだが、アンタが聞かないのなら教えてやる事も無いだろう。
泣いているセイを慰めてやるのは俺の役目だろう。
あわよくば…なんて少しも思って無いさ。ああ。少しも。俺はセイの幸せを何より望んでいる優しい男だからな。
「よかったぁ。セイちゃんにはまだ知られたくないんですよぉ」
「そうか」
あからさまに安堵の息を漏らす総司に、斎藤は変わらず無表情のままこくりと頷いた。