告白14

総司の姿を見て、自分の想いを省みて、己の行動を恥じたセイは今度は酷く焦りを感じ始めていた。
『俺は神谷清三郎という人間に惚れている。男としても、女子としても』
斎藤はそんな風に自分を想ってくれていた。
嬉しかった。
思わず心が女子に戻ってしまうくらい。
彼の傍にいられたら。
女子としても男としても自分を認めてくれる。
そんな存在になってくれる。
それは酷くセイの心を揺らした。
けれど総司の態度を見て思った。
もしかして、彼もそんな風に自分を想ってくれていたのではないか。と。
そうであれば、セイは総司に態々嫌われるような態度を取る必要も無い。
距離を置く必要も無い。
前のように、ただ、好きだと言う想い、守りたいと言う想い、それだけで自分に嘘を吐かず、彼の傍にいる事が出来る。
ただ。セイが酷い事を言った事で彼が心変わりしていなければ。
告白前も、告白後も総司の態度は何一つ変わらず、ほっとしていた。
けれど、告白した事で、彼の中でもうけじめをつけていて、セイを既に諦めていたら。
もしかしたら、既に次の恋を探し始めていたら。
ずっと『女子はいらない』と言っていた人が、セイを女子として好きだと言ってくれたのだ。今後また女子を好きなる可能性が無いわけではない。
そう思うと勝手だと分かっていても、焦りと嫉妬がセイの心を埋め尽くした。

「皆さん。お疲れ様でした」
総司は巡察の報告を終えると、隊士部屋に戻り、そこで既に各々着替えを済ませ寛いでいた一番隊隊士たちに労いの声をかけた。
彼が帰ってくる姿を確認すると、それまでそわそわと座り込んでいたセイは勢いよくたちが上がり、総司の元へ駆け寄る。
「…ど、どうしたんですか?神谷さん?」
所用がある時以外自発的に総司に近づこうとする事が無くなっていたセイが近づく事に、総司は驚きと少しの緊張のある顔で彼女を見下ろすと、セイは徐々に頬を赤く染め、そして意を決したように顔を上げた。
「あの!沖田先生!今まで大変失礼な行動を取り、申し訳ありませんでした!」
「え…あ…」
室内で寛いでいた隊士たちはセイのその言葉に、一斉に二人を注目した。
神谷と沖田先生が仲直りしてくれるのだ。これで一安心だ。という眼差しがそこに含まれている。
「私…」
「ちょっ…ちょっと待って下さい!ここじゃ何ですから、別の場所に行きましょう!」
そう総司に言われて、セイはそこで初めて気付いたように周囲を見渡し、皆の視線を集めている事に気付いて真っ赤になった。
総司に早く伝えなくては。
一刻も早く。
今言おうが場所を変えて言おうが変わらないのに、早く総司に自分の本当の想いを伝えなくては、折角セイを想ってくれている彼の気持ちが跡形もなく消えてしまいそうで気が競っていた事に気付いた。
恥ずかしさに俯いたセイの手を取ると、総司は隊士部屋を出て、何も言わず廊下を早足ですたすたと歩き、人気の無い所で漸く立ち止まった。
「どうしたんですか?神谷さん」
立ち止まったところで、もう一度仕切り直して総司は彼女に問いかける。
「…す…すみません」
セイは頬を染めたまま俯くが、繋がれたままの手から伝わる体温が彼女の心を擽り、自然と心音が高鳴りだして落ち着かなかった。
こんな風に何気ない会話を交わすのも、手を繋ぐのも随分久し振りだ。
そして更に、今まではセイが総司を想う片恋だったのが、いつの間にか相愛だったのと気付いてから初めてだった。
そう思うとまた余計に気持ちの置き場を何処に持っていったら良いのか分からず、総司を見上げる事も出来ず、自然と溢れてくる涙で揺れる瞳で視線を泳がせた。
「神谷さん…?あ。ごめんなさい!」
セイが何に気をとられてそわそわしているのか分からず総司は戸惑うが、彼女が今も握ったままの手を見つめている事に気がついて、慌てて放した。
熱が離れ、セイの心は何処かぽかりと空いた穴から寂しい気持ちが入り込んでくる。
それで話が終わると、互いにその後の言葉が出てこなかった。
どうしたらよいか分からず何処と無く視線を逸らす総司に対し、セイはきゅっと口元を結ぶと、彼に向かって深く頭を下げた。
「沖田先生。申し訳ありませんでした」
「あ…」
総司が今度は薄っすらと頬を染める。
「沖田先生に酷い事言って突き放して。先生はその後も普通に接して下さったのに」
「いえ。あれば。だって、私が勝手に口にした事ですし。神谷さんの気持ちも何も思い遣らず、迷惑になる事だけ言って…」
「沖田先生!」
総司が己の行動を振り返り、どんどん尻窄みになりながらも自身を攻める言葉をセイは遮った。
「私。一つ嘘を吐きました」
「う…そ…ですか?」
セイがいつ嘘を吐いたのか見当のつかない総司は首を傾げる。
一方のセイはそれまで揺れていた瞳がぴたりと定まると総司を真っ直ぐ見つめ、柔らかく微笑んだ。
「私。沖田先生が好きです」