風桜~かぜはな~20

「…私のお嫁さんになったら、セイちゃんは幸せですか…?」

セイは一瞬問われた意味が分からなかった。
総司はあれ程嫁を娶らないと言っていたじゃないか。それなのに何故突然そんな事を言い出すのか分からなかった。
「…き…局長に言われたんですか?」
近藤は何かの折に、『おセイさんが総司の嫁になってくれればなぁ』とセイに呟いていた。局長命令でも出てしまい、彼はそれに従う事にしたのだろうか。
訝しんで総司を思わず睨みつけると、彼は慌てて首を横に振った。
「違います!違います!近藤先生はそんな事言いません!…いえ、何度か言われましたけど、命令なんてされてませんよ!」
「…だったら…どうして私を娶るだなんて…」
「セイちゃんには幸せになって欲しくって!女子は結縁が幸せだからとか、子を産んだら幸せだからとか、もうそういう気持ち無いんです!ただセイちゃんがセイちゃんらしい幸せを見つけてくれたらと思って!」
顔を真っ赤にしながら語る総司の表情をセイは呆然と見ていた。
決して彼は嘘をついている訳ではない。
命令されたのでもなく、ただ純粋にセイの幸せを願って言ってくれているのだという事は、彼の仕草や表情から十分過ぎるほど伝わってきた。
けれど。
「…私の幸せを望んでくださるのなら…どうしてそれが沖田先生との結縁になるのでしょう?」
「え…あれ…そう言えば、どうしてでしょう?セイちゃんが好いた人と結縁すればセイちゃんらしい幸せに巡り会えると思ってたんですけど…斎藤さんとそんな話してたんですけど…あれ?」
これだけ口篭り続けていざこれまで思っていた事を口にしたら、思考の綻びを指摘され、本気で困惑し始める総司にセイは噴出してしまう。
「先生、そんな事ずっと言えずにいたんですか!」
「そんな事とは何ですか!私、結構真剣にセイちゃんの事考えてるんですよ!」
「大体好いた人と結縁という話で、どうして自分と結縁になるんですか!?」
「だって!それは!…セイちゃんは私の事…好きじゃないんですか…」
「え!?あ!」
自分から一度流れた話を修正した事に気付いて、セイは慌てて口を押さえた。
「…やっぱり祐馬さんに似ている斎藤さんの方がいいんですかね…」
がっくりと肩を落す総司に、セイは目を見張った。
明らかに今まで子ども扱いしていた総司とは違う反応だった。
セイの幸せを思って。という彼の言葉に同情は含まれていなかった。
明らかに彼はセイの幸せの為に、己と結縁を望んで欲しいと心から願っていた。
どんなにセイと結縁の話が出ても、微塵の未練も無く笑い飛ばした今までの総司とは全く違う反応。
まさか。そんなはずがない。
「……沖田先生は…私の事…好きですか…?」
恐る恐るセイは言葉を声に乗せる。
総司はばっと顔を上げ、セイを見ると、顔を耳まで真っ赤にした。
「…私の事…お嫁にしたいくらい…好いてくださっていますか……?」
どうしても、問わずにはいられなかった。