風桜~かぜはな~13

「…セイちゃん、不思議だったんですけど」
「屯所に来てる時は神谷清三郎だって言ってるじゃないですか」
屯所の一室の縁側でセイと総司はのんびりとお茶と茶請けの団子を摘んでいた。
セイが屯所に診察で訪れるようになってから、診察後の日課になりつつある。
「そんな言い分けられないですよ。セイちゃんはセイちゃんですもん!」
ぷっと頬を膨らませながら言う断言する総司に、セイは呆れ顔で反論する。
「お仕事の時はちゃんとできるのに、どうしてそう普段の時は頭の中スカスカなんですか…っていうか私はお仕事で来てるんですから!ちゃんとお仕事状態になってくださいよ!」
「無理ですよぉ。セイちゃんと会ってる時はお仕事状態にはなれないんです」
「どうして?」
「んー。いいじゃないですか。どうだって。いつもお仕事状態だと疲れちゃいますもん。それより、不思議だったんですけどー」
「はいはい。何ですか?」
どうせ何かを考えて行動している訳では無いのだろう。そう悟ったセイは総司の話の先を促した。
「セイちゃんいつ剣術や体術を学んだんですか?土方さんや中村さんが褒めてましたけど。富永さんもびっくりしていたから富永さんに習っていた訳でもないでしょ?」
「……斎藤兄上に教わっていたんです」
「……」
「勿論小さい頃は兄上に習っていましたけど、新選組に入ってから教えてくださらなくなってしまったし…斎藤兄上にお願いしたら…教えてくださったんです…」
「ふーん…」
「最近はお忙しいみたいだから機会無いんですけど!あ、でも、最近は中村さんが教えてくれるんですよ!」
「中村さん?」
「はい!先日助けて頂いた後に、頻繁に診療所に来られるようになって!父上が沖田先生みたいだってまた怒ったりもしていますけど、でも『筋がいいから勿体無い!屯所に来るなら、もっと腕を上げたらいい!』って言ってくれて!」
「へー。人の面倒見る余裕無いでしょうにねぇ…」
「何かの拍子に『嫁になれ!』とか言って襲ってくるからそれさえ無ければいい人なんですけどねぇ…。でも、皆『剣術なんか学ぶな!危ない!』とかしか言わないから教えてくれる貴重な人だからお座成りに出来ないんですよね!」
「はーん」
「沖田先生?さっきから相槌しか打ってませんけど?」
セイが首を傾げ、総司を見ると、面白くなさそうにこちらを見ていた。
「…どうせ女子が剣術を学ぶなって言うんでしょ!止めませんからね!また押し倒したって無駄です!」
ばっと構えるセイに、総司は相変わらず剣呑な目つきで彼女を見る。
「な…何ですか…」
何も喋らず、ただ見つめ返してくる総司に不気味さを感じたセイはじりじりと腰を引く。
「今日の稽古はすこぉし厳しめでいいですよね。中村さんがセイちゃんに教える余裕があるくらいなら」
「え?え?」
「神谷さんもそこまで言うなら、少し私と手合わせしてみませんか?」
「あ!神谷さんって!」
「だって、今はお仕事で、神谷清三郎さんですもんね」
「はい!」
剣呑な目つきの後に、にっこりと無邪気な笑みを浮かべる総司に、セイは脅える反面、初めて総司に認められた気がして嬉しくなって大きく返事を返した。

後日、中村吾郎が稽古と称して立てなくなる程総司に打ちのめされ、屍となっていた。
一方で、病室送りとなった吾郎を自然セイが看病する事になり、総司が後悔する事にもなった。