どくん。どくん。
鼓動が早鐘を打つ。
目の前の扉の向うから激しい音。
今この扉を開けるのが恐ろしい。一方で、早く開け放ちたい。
しかし、その先の光景を見る事で、己がどうってしまうのか怖かった。
ぱしん!
「セイちゃんっ!!」
勢いよく開け放つと、同時に、短刀が喉元を狙ってきた。
瞬時にそれを避けると、短刀を握る腕を掴む。
そのまま腕を捻り上げると、背後から肩の付け根を押さえつけ、足元を掬うと、床に叩き付けた。
「いぁっ!」
上げられる悲鳴の声の高さに、そして叩き付けた体の小ささに総司は慌てて己の下にいる者の顔を確認する。
「セイちゃんっ!」
「…っ!沖田先生っ!?」
総司はセイから飛び退くと、掴んだままの手を救い上げ、正面を向かせ、抱き締めた。
「よかったぁ…」
「痛っ!先生っ…痛いですっ!」
回される腕の強さにセイは悲鳴を上げるが、総司の耳には入らない。
「心配掛けないでくださいよ!」
「しっ…死ぬっ…」
更にぎゅうと回される腕に、セイの体はみしみしといい始める。
「何だ。総司の女か。だったらこんな所まで入れるなよっ!」
安心に浸った次の瞬間に浴びせられた声に、総司は驚いて顔を上げた。
「土方さんっ!?……と、中村さん?」
目の前に立つのは、土方歳三と、その奥で小さくなりながらこちらを見ている中村吾郎の姿を見つけた。
「どういうことですかっ!?」
と、総司はセイを引き離すと、着流しが肌蹴、晒しも緩み役割を成さなくなり彼から開放された事で大きく深呼吸する度に小さな膨らみが揺れているのが見えた。
総司は慌てて彼女の着流しの襟元を抑えると、また二人を見上げる。
「俺はそんな小童襲わねーよ」
そう言って土方が指で示す方を見返ると、その場には四、五人の男が転がっていた。
「!」
「落ち着け!手を出される前に伸してる」
息を飲み、一気に表情を変える総司に、土方が一喝する。
「俺は中村とこいつが格闘している所を偶々通りがかったんだ」
土方の言葉から引継ぎ、中村が続けた。
「俺は…その…沖田先生の女だって気付かずに…一目惚れして後を追ってたらここの部屋に引きずり込まれたから…っ入った時はまだ全然何処も触られて無いっすから!格闘している内に肌蹴てるだけっすから!その人無茶苦茶強いっすよ!」
身振り手振り大きく否定する中村に、総司は少しほっとしながらセイを見ると、彼女は下を向いていた。
本人は抑え込んでいるつもりだろうけれど嗚咽が聞こえてくる。
「お前もなぁ、他の男に手ぇ出されなくなかったらこんな所に連れて来んなよ。一瞬女か分かんなかったが、見る奴が見たら格好の餌食だぞ」
「違います!私が自分でここに来たんです!沖田先生は何も悪くありません!松本先生の助手として入れてもらえるようにお願いしたんです!」
呆れて総司を諭す土方に、セイは嗚咽も収まらぬまま彼を振り返ると反論した。
「松本法眼に?あの人も何をしてるんだ」
「沖田先生も松本先生も悪く言わないで下さい!私が勝手にここに迷い込んで彼らに襲われたんです!全部私の責任です!」
更に呆れた口調で言う土方に苛立ったセイは襟元を抑えていた手を離し、立ち上がると、土方に食い掛かる。
「女の不始末は管理する男の不始末だ」
「女だとか男だとか関係ありません!私の不始末は私の不始末です!誰のせいでもありません!勝手な事言わないでください!」
「そう言うなら、お前のせいでうちの隊規が乱れたんだ。この不始末どうしてくれる!」